1895年12月28日、ルイとオーギュストのリュミエール兄弟は、グラン・カフェ内インドの間で、映画の原型となる「シネマトグラフcinématographe」有料上映会を開催した。映画史的にはこの日を映画の誕生日と見なすのが一般的。この映画の発祥地が、日本人になじみ深いオペラ座界隈にある。
場所は高級ホテル〈スクリブ〉地下。現在は「リュミエール・サロン」という名で、企業向けセミナーや記念式典などに使用される多目的スペース。想像以上にこじんまりとしているが、最初の上映時も客は33人だったというから、さほど広さは必要なかったのだろう。
上映作品は10本。おなじみの『(リュミエール)工場の出口』から始まり、『学会参加者の到着』、『赤ちゃんの食事』、『庭師』といった作品が映写されたとか。最初からニュース風、観光映像風、コメディ、家族ものと、多様な作品が集まったのは驚きである。ただし「迫りくる列車を前に観客が慌てて逃げ出した」という逸話で有名な『ラ・シオタ駅への列車の到着』は、記念すべき初日プログラムにはない。どうも年が明けてから上映プログラムに入ったようだ。
同ホテルは映画誕生の地という利点を生かし、昨年から「スクリブ賞」を新設。毎年ジャンルや形式を問わず、その年の革新的な映像作品一点に映画賞を授与するものだ。昨年はTiane Doan na Champassak とJean Dubrel両監督の仏・ミャンマー映画『Natpwe, le festin des esprits』が受賞。式典では、「リュミエール・サロン」で、長年確執があったとささやかれるリュミエール家の孫息子とメリエス家の孫娘が抱き合い、会場が感動の渦に包まれたという。
残念ながら「リュミエール・サロン」は用がないと入場はできないが、ホテルの一階にはカフェやレストランがあり、映画スチールやリュミエール兄弟の写真などが飾られている。映画創成期に思いをはせながら、ゆったりと時を過ごせる穴場となっている。(瑞)
Hôtel Scribe Paris★★★★★:
1 rue Scribe 9e
www.hotel-scribe.com
世界初の映画興行のプログラム。
「リュミエール・サロン」
レストランの壁には、リヨンのリュミエール研究所から贈られた初上映会作品のスチール写真。