国民みんなが所有するモノを作る場所とはどこでしょう? それはおそらく、貨幣を世に送り出す造幣局。フランスの造幣局はシャルル2世により864年に創設された。現在はモネ・ド・パリMonnaie de Parisと呼ばれ、国内に造幣所を2カ所持つ。一つはセーヌ川をのぞむコンティ河岸沿いの造幣局内。主にコレクション用のコインやメダル、レジオンドヌールや芸術文化勲章、美術品や宝飾品を製造する。もう一つは、ボルドーに近いペサックの工場。ユーロを中心に一日900万枚の通貨を造幣している。
世は不況といわれ久しいが、モネ・ド・パリは不況知らずだ。2008年以降、国からの造幣の注文は下がり続けているが、昨年は前年比2%の収益増を実現した。秘密は海外への事業拡大にある。アフリカ諸国やモナコ、ルクセンブルク、マルタといった小国の造幣事業を請け負うが、昨今は中東の国々と深いパイプを持つようになっている。全体の収益のおよそ12%が海外からの収入だ。
話題作りにも余念がない。昨年末には5000ユーロのヘラクレス金貨を販売し、一日で完売させた。最近もノートルダム大聖堂建立850周年記念の金貨と銀貨が人気だ。
「造幣局は時代遅れというイメージが強い。でもこれから変わります」と語るのは広報担当アレクシアさん。実際、若きディレクター、クリストフ・ボー氏の就任以来、大胆な改革を続けざまに行ってきた。そもそもモネ・ド・パリは財務省の管轄機関だが、財政的には完全に自立。自分で売り上げをあげられるからこそ、自由なかじ取りができるのだ。
現在、「MétaLmorphoses(メタルとメタモルフォーゼを併せた造語)」という改装プロジェクトが進行中。パリの造幣局が大工事を経て、市民に広く開放されるのだ。造幣工房は自由に見学可能となり、三つ星シェフ、ギー・サヴォワのレストラン、美術館、コンセプトストアなどが入る予定。敷地内は遊歩道となり市民の新しい憩いの場に。フランス最古の機関であり、唯一の公共無形文化財企業でありながら、少々影が薄めのモネ・ド・パリだったが、来年半ばくらいからは、ぐっと親しみやすい存在にメタモルフォーゼするはずだ。(瑞)
記念メダルを 刻むのは職人仕事。 精神集中が必要な 細かい作業が続く。