クレールさんが住んでいるのは北駅の東側地区。「この辺はね、北駅と東駅の線路に囲まれたインドの島みたいなものよ」。確かにその通り南はアケデュック通りから北はラ・シャペル大通りに囲まれたほんの一角だが、線で区切られたように内側と外側は明らかに違う。内側を行き交うのはインド、スリランカ、パキスタン系の人ばかりである。「道路にはカレーとお香の臭いが混ざりあって溢れているわ」と彼女が言う通り、スパイシーな香りが一帯に漂う。たくさんの食料品店、そして他の地区のようにフランス流にアレンジされていないオーセンティックな料理を出すレストラン、お菓子屋、サリーのブティック、雑貨屋、床屋、エスティック・サロンと一帯の店はどれもインド系一色である。「マクドナルドなんて間違ってもここにはないわよ」と笑うクレールさん。パリの他の地域にくらべ家賃が比較的安いので、クレールさんのようにここで暮らす若いフランス人も少なくはない。
クレールさんはアミアンのデザイン美術学校卒業生だ。在学中にグラフィックと言語の研究プロジェクトで手話に注目した。手話という言語が視覚的に富んでいること、瞬間だけのはかないものであることに興味をもったそうだ。以来習い始めた手話のレベルは現在通訳をするまでになった。面白いのは手話ができるようになって彼女自身が大きく変わったということだ。「体と表情をフルに使うのを強いられることによって、恥ずかしがりやだった自分がすっかりオープンになったの。人とのコミュニケーションが簡単になったわ」。友人たちは彼女が別人になったことに驚いたそうだ。クレールさんにいくつかの動物を手話で教えてもらうと、スルッと簡単に覚えられる。なるほど体で言葉を覚えるから、記憶の仕方がふつうの言語と違うのかも知れない。「違う言語を習う喜びと、手話の基本でもあるラテン語を習う感覚でもあり、言語のルーツを再確認できるのよね」と手話の魅力を語った 。(久)
キラキラドレス、各種お香、南国フルーツ、神様たちのキッチュなフィギュア、各店にはカラフルな商品で溢れる。クレールさんたちのグループ GestualScript はあらゆる実験も試みて手話の記述を研究している。
●Maison Bichon
この界隈の最も端で、東駅から伸びる線路のすぐ近く。インド系ではない一般のパン屋さん。ここでは特にパティスリーがおすすめ。マンゴー・エクレアやパラディと名付けられたケーキがクレールさんのお気に入り。昼時はサンドイッチに行列です。
月〜金6h30-20h30、土7h-20h30。日休。
2 rue Cail 10e 01.4607.0412
●Jardins d’Eole
2007年にできた公園。農薬や殺虫剤を一切使わないエコロジー公園で都会のオアシスだ。無機質なデザインのベンチや散策路と自然な緑地のコントラストが気持ちよい。現在クレールさんのお気に入りはここの池に住むカモの親子を眺めること。月〜金8h-21h30、土日9h-21h30。
20 rue du Département 18e
●G.AND.CO supermarché
ラ・シャペル駅のすぐ目の前にあるインド系スーパーマーケット。日曜日も開いているし冷凍食品がお手頃だしフレッシュなミントやコリアンダーもあるし米もここで買う!というクレールさん。豊富なスパイスと紅茶もお気に入りとか。
火〜日 10h-20h30。月休。
72 rue Louis Blanc 10e 01.4607.1695