●L’Opéra de quat’sous
『マック・ザ・ナイフ』で知られるベルトルト・ブレヒト(戯曲)&クルト・ワイル(音楽)の『三文オペラ』(1928)は、1728年にジョン・ゲイが発表した『乞食オペラ』を起点としていて、盗人や娼婦が登場する貧民窟の話は、当時主流だったイタリア風オペラに慣れた英国上流社会にショックを与えた。ブレヒトは話を1920年末に移し、盗人団の頭領で色男のマッキーと、ロンドンの貧民窟の乞食たちの元締めピーチャムの娘ポリーの恋愛を軸に、彼らを取り巻く登場人物たちが繰り広げる騒動が、資本主義社会へ、そして欲深い人間の本質に対するたっぷりの皮肉と風刺とともに演じ歌われていく。
オペラと呼ばれているが、ブレヒトもワイルも「歌手ではなく役者」のための舞台だと考えていた、と今回演出を担当するローラン・ペリー。これほど音楽が独り立ちした有名戯曲だと「演じる」と「歌う」ことの共存が可能なのか? という疑問が生じる。そこがさすが、というかプロだなぁ…と感心したのは、舞台に立つコメディ・フランセーズの役者たちの力量。時を20世紀末に移した状況の中で実に素敵な歌声と演技を披露してくれるのである。
私自身が今年一番楽しみにしていた演目のひとつ。期待にたがわず心地よい3時間を過ごしたけれど、一つだけ残念だったのは、やはりブレヒト原作でも舞台のロンドン貧民窟の「薄暗さ」や「薄汚さ」が不在で、舞台美術も照明もクリーンな感じがしたこと。一緒に行った友だちもその考えに賛意を示しつつ「演劇の殿堂だからねぇ…そんなに汚せないんじゃないの?」(海)
7月19日迄。8€-47€。
Comédie Française
Adresse : Place Colette, 75001 ParisTEL : 08.2510.1680
URL : www.comedie-francaise.fr/