
©C.Cauvet_courtesy Galerie Ceysson & Benetiere
Jérémy Liron – Hortus Conclusus
ノーベル賞作家、アニー・エルノーが少女時代を過ごした町として知られるノルマンディーのイヴト。そこにある現代美術センター「ギャラリー・デュシャン」は、1991年の設立以来、小さいながら充実した展覧会を多数企画してきた。名前は「デュシャン」だが、現代美術の先駆者、マルセル・デュシャンとは何の関係もない。市、県、地方圏、文化省などから公的支援を得ており、美術の実地教育も行っている。今期の展覧会は、ノルマンディー印象派フェスティバルの一環で、気鋭の若手画家、ジェレミー・リロン(1980-)の作品を一風変わった展示方法で紹介している。
リロンはマルセイユで生まれ、トゥーロンとパリの国立美術学校を卒業した。アグレガシオン(一級教員資格)を持ち、しばらく教鞭もとっていたが、現在はアーティスト活動に専念し、リヨンで活動している。
ポスターに使われた作品は、植物を描いた具象画なのに、抽象画の部分もある不思議な作風だ。画面の上部にこんもりとした森のようなものが描かれ、その下はマーク・ロスコを思わせる単色の平面だ。バランスからすると、平面の部分の方が大きい。

展覧会のタイトルは「囲われた庭」を意味するラテン語 Hortus Conclusus だ。西洋美術では、聖母マリアや楽園を象徴する。ルネッサンスの庭園も、修道院の回廊の中の庭も「囲われた庭」である。キリスト教以外の文化圏にも、砂漠の中のオアシス、ペルシャのミニチュア画に見られる庭園、京都や小京都と呼ばれる町の町屋にある中庭などがある。囲われているから、外から見られない安心感があり、人と植物の交流が親密なものになる。リロンの妻は造園家で、ヴェルサイユや、独自の世界観を持つ著名な造園家ジル・クレマンのところで学んだ。妻の職業がリロンの作品に影響していることは明らかだ。
そうしたことを考えると、ポスターに使われた作品の下の部分はもしかしたら壁なのかもしれない。そして森のように見えたのは、壁の外から見た、囲われた庭の中の木々の上部かもしれない。

©C.Cauvet Courtesy Galerie Ceysson & Benetiere
リロンが描く風景に人影はない。動物もいない。植物と建築、植木鉢などのみが描かれた空間は何とも静かで、見ている自分も静かで瞑想的な気分になる。見る人の心理を一定の方向に誘導するのを避けるためか、作品の題名は「無題」、「風景」などとそっけない。
長方形の会場には、対角線状に長い壁が設置されている。一面は赤でその裏面は白。赤い面にはリロンの新作が、白い面には、彼がインスピレーションを受けたり、自分と近しいと感じる絵や写真、またはそれらのファクシミリが架けてある。庭にいるマティスの写真、「不思議の国のアリス」の古い英語版、フラゴナールの庭の作品の版画、南仏の庭を好んで描いた木村忠太の油彩、リロンの妻が自分の父から譲り受けた押し草などだ。

GALERIE DUCHAMP_YVETOT
photo Salim Santa Lucia
油彩のキャンバスのサイズには、一般的に「風景」、「肖像」、「マリーン(海)」の3サイズがあり、「肖像」に比べて「風景」はより横長で、「マリーン」はさらに長い。リロンが描くのは風景だが、キャンバスのサイズは全て「肖像」サイズだ。通常のフォルマとは異なるサイズで描くことで、独特の空間を生み出している。(羽)
8/30まで

Galerie Duchamp
Adresse : 5-9 rue Percée , 75010 Yvetot , FranceTEL : 02 35 96 36 90
アクセス : Paris Saint-Lazare 駅からYvetot駅まではTERで約1h40。Yvetot駅からは徒歩10分
URL : https://galerie-duchamp.org
入場無料。月火休。水 : 10h-12h/14h-18h 木〜日 : 14h-18h。
