
François Morellet 100 pour cent
フランスの幾何学抽象芸術の代表的アーティスト、フランソワ・モルレ(1926-2016)の生誕100周年を記念する展覧会がフランス全土で開かれている。先陣を切ったポンピドゥー・メッスでは、1941年から2016年までの作品100点を展示する大回顧展を9月28日まで開催。フランス中で生誕記念展覧会をするほどの大物なのに、日本では意外に知られておらず、ウィキペディアにすら名前が出ていないアーティストだ。
フランス西部のメーヌ・エ・ロワール県で生まれ、故郷とパリを拠点に活動した。20歳で結婚し、家業のおもちゃ製造業で営業と商品開発を担当し、50歳まで美術活動と並行してビジネスを行なった。家業で収入があったからこそ、美術で生計を立てることを考えず、自由に表現することができたといえる。作品制作に使える工業素材を入手できることも家業を続けるメリットだった。晩年は美術に専念し、90歳で天寿を全うした。
美術は独学で、10代の頃は、静物や自画像など具象画を描いていた。同世代の抽象美術家たちと交流し、彼らの影響を受けて1950年に具象をやめ、初めて幾何学抽象の作品を制作した。抽象美術を追求することに決定的な影響を与えたのは、家業のビジネスのために移住する目的で訪れたブラジルで1951年、スイス人画家・彫刻家・デザイナーのマックス・ビル(1908-1994)のアール・コンクレの作品を見たことだった。
アール・コンクレはオランダの芸術家で建築家のテオ・ファン・ドゥースブルフ(1883-1931)が1930年に提唱した芸術運動で、象徴、感情、個人的なものを入れず、自然の模倣を排した普遍的な芸術を目指して、機械的なテクニックを使って色と構成を厳しくコントロールするというものだった。ビルはバウハウスで学んだ人で、ワシリー・カンディンスキー(1866-1944)やパウル・クレー(1879-1940)から教えを受けた。モルレはのちにビルと出会い、ビルを通して抽象彫刻家のジャン・アルプ(1886-1966)とも知り合った。

モルレの幾何学抽象芸術に影響を与えたもう一つの要素は、イスラム建築だった。1952年にスペインのアルハンブラ宮殿で、幾何学模様で覆われた建築を見たことが、全体を同じモチーフで埋め尽くす「オールオーヴァー」に取り組むことへの追い風となった。同じ大きさの6色の十字形が画面にきっちり並ぶ「紫、青、緑、黄、オレンジ、赤」(画像上)はその一例だ。

アール・コンクレの作品には、ニュアンスが異なる黄色が画面の真ん中から上下対称に並んだ「黄色から白へ」、同じサイズの正方形9枚の何枚かがきちんと同じ向きや逆向きに描かれ、真ん中の正方形だけが向きが違うという「3x3」などがある。パッと見るとただの幾何学的な図形だが、よく見ると、色と形は見た目ほと単純ではなく、規則に沿って配置されていることがわかる。
モルレの作品には、じっくり見て規則性を発見する楽しみがある。 その最たるものが、ポスターにもなった「黄色から紫へ」だ(下の画像)。七重になった同じ大きさの正方形が2つ並んでいる。一番外側の四角は左右とも同じ色に見えるが、赤と青の縞でできていて、左側の四角では青線が、右側の四角では赤線が多い。その後は色の太さを変えながら、左が青と黄色、右が赤と黄色の組み合わせで四角形が続いていく。最後の真ん中はどちらも同じ単色の黄色になる。外から内に向かう四角形の色の変化を楽しみながら、左右の四角形を比べて見ることができ、何度見ても飽きない魅力がある。

このように計算して作った色と形の美しさは、理性的で厳格な幾何学作品を作ったピート・モンドリアン(872-1944)にたとえられた。しかし、モルレにはもう一つの異なる面があった。フランシス・ピカビア(1879-1953)的な「真面目な精神を馬鹿にしたり皮肉ったりする」一面だ。モルレ自身、「モンドリアンとピカビアの後継者である自分は、1952年から、厳しいと同時に非常識なプログラムを発展させてきた」と語っている。
では、そのピカビア的精神はどう作品に反映しているのだろうか。「取り替えよう Troquons n.3」は、正方形の中に25の小さい正方形がある作品で、ほとんどは金属線でてきているが、途中から木の枝になり、右上は四方が木の枝で作られた正方形になっている。規則的な閉鎖的空間の中に「破」がある。

照明を使うようになった時も、ネオンで「破」を作った。半円形の赤いネオンチューブを2本組み合わせてアーモンド形を作り、それを3つ合わせて三つ柏のような形を作ったが、さらに半円形を1本、違う位置に加えたことで、わざと調和を崩した。
厳格な規則性は美しいが、そればかりやっていたら息が詰まることもあったのだろう。

モルレの作品は外にもある。会場の窓から、仏国鉄(SNCF)の修理工場(Technicentre)のファサードに、モルレが示した規定に従って再現されたモルレの作品が見える。黒いテープのラインの組み合わせで150度、120度、60度、30度の角度を作った。ラインの動きが作る角度を追って、どれがどの角度なのか、クイズのように楽しむことができる。これは、ピカビアではなく、モンドリアンの後継者の仕事である。(羽) 9月28日まで

