
© ADAGP, Paris 2026 / François JAY
ディジョン美術館とマニャン美術館で、ジャメル・タタ展。
ジャメル・タタ〈反復と変異〉
Djamel Tatah ー Répeter-muter
ジャメル・タタ(1959-)は、売れっ子のフランス現代画家の1人。単色の平面を背景にして等身大の人を描く。アルジェリア人の両親を持ち、ロワール県で生まれ、サンテティエンヌの美術学校を出た。パリの国立高等美術学校で15年間教鞭をとったこともある。1990年代から国際的に知られるようになり、作品は英国博物館、パリ市近代美術館、ストラスブール美術館などに所蔵されている。
2025年はメッス・ポンピドゥの「模写する人々」展に参加し、ドラクロワの「墓地の孤児」(ルーヴル美術館蔵)を模写した作品を出展した。彼の作品は、パリ郊外、ヴィトリー・シュル・セーヌの現代美術館MAC VALで2028年1月まで開催中の「理想的なジャンル」展でも見ることができる。
タタが描く人物は大人の男性と女性で、子どもや高齢者はほとんど出てこない。各自が簡単なポーズをとっており、どれひとつとして同じポーズはない。背景の色は、キャンバスに何度も色を重ねて作ったもので、複数の作品を見ていくと色調に統一感があるが、同じ色はない。モデルにポーズしてもらい写真に撮ったものを元に制作する。単純化された線、陰影のない体はイラスト的だ。人物がなんとも言えない微妙な表情をしているので、何を考えているのか、作者は何を描きたかったのかを無限に解釈することができる。タタも人物も、物語を語ることはしない。見る者と同じ目の高さに大画面の色の広がりと人物を置いて、謎を投げかけている。
人物は足の先まで描かれていない。「全身を描くと遠近が出てくるから、それを避けるため」だと言う。目の窪み、首の下などに少し影がある程度で、それ以外に影は描かれていない。衣服は、世界中のすべての人が着ていそうな、ユニセックスのシンプルな無地の服だ。人物の顔はよく似ていて、同じ人物が再生産されているような感じがする。どこの誰にでも通用する設定にしたことで、誰もが人物になることができる。タタの絵にはそうした普遍性がある。
戦争がテーマだという作品では、エルサレムの壁の色、地中海の青が背景に塗られている。人は岸辺に流れ着いたかのように、あるいは小島となって海を漂流しているかのように描かれている。
画材には油絵具と、ろうと顔料を使う。アトリエの写真を見ると、同じメーカーのコーヒー豆の空き缶が絵の具入れや筆入れとして所狭しと並んでいる。コーヒーを飲みながら制作する姿が画家の浮かんでくる。

展示する美術館は2ヶ所で、どちらも歩いてすぐの距離にある。それぞれの館で常設展示品とのタタのコラボレーションが見られる。ディジョン美術館の建物は、かつてのブルゴーニュ公の宮殿の一部。地上階の「衛兵の間」に安置された中世のフィリップ豪胆公(フィリップ2世)、その息子のジャン1世(ジャン無怖公)と公妃マルグリットの墓は豪華な彫刻と金で飾られている。その脇の壁に、タタが描いた体を布で覆われた等身大の男性が横たわっている絵がある。眠っているのか、死んでいるのか、身分も出自もわからない人たちで、公家の華やかな墓と対照的だ。

マニャン国立美術館

© ADAGP, Paris 2026 / © François JAY
もう1ヵ所はマニャン国立美術館。入口の階段に、天井から透けた白い布を垂らし、その布に人物の木版画を黒で印刷した。風が吹くと人物が動いているように見える。別の部屋にある大きな版画は、パリにある版画工房と協力し、木版とリトグラフで、1点に半年以上かけて制作したものだ。背景の色を何度も重ねて色の深みを出した。
この美術館は、ディジョンのコレクター、マニャン家が収集したコレクションを展示している。規模は小さいが、所蔵品は一流だ。2024年パリ・オリンピックの開会式で、体を青くしたフィリップ・カトリーヌが歌った場面が、レオナルド・ダヴィンチの最後の晩餐の構図に似ていることから、キリスト教への冒涜かという論議が起きた。実はダヴィンチではなく、ディジョンにある17世紀のオランダ人画家ヤン・ファン・ベイレルトの「神々の饗宴」が元になっていたとわかり、この作品が一躍注目を浴びた。常設会場にあるので、この機会に見てほしい。(羽)

Musée Nationale Magnin (国立マニャン美術館):
4 rue des Bons Enfants 21000 Dijon
musee-magnin.fr
月休。火〜日 :10h-12h30 / 13h30-18h
常設展無料。ジャメル・タタ展は、5€/9€
パリからの行き方:Paris Gare de LyonからDijonまでTGVで1時間半。駅からは徒歩15分。9月20日まで

Musée des Beaux-Arts de Dijon Museedijon.fr 火―日 6/1-9/30まで 10h-18h30 10/1-5/31まで9h30-18h 常設展無料
Adresse : Place de la Sainte-Chapelle, 21000 Dijon , FranceTEL : 03 80 74 52 09
アクセス : SNCF Dijon駅からは徒歩15分ほど。
URL : https://musees.dijon.fr/
火休。10月〜5月:9h30-18h。6月〜9月 : 10h −18h30。
