
第82回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に登場し、審査員特別賞をはじめ三冠に輝いた映画『LOST
LAND/ロストランド』。フランスでは『Les Fleurs du manguier(マンゴーの花)』のタイトルに決まり、この春、日本とフランスで同時期に劇場公開となる。
主人公はロヒンギャの姉弟。9歳のソミーラと5歳のシャフィは、バングラデシュの難民キャンプから、マレーシアの家族に会うため国境を越える。パスポートを持たぬ彼らにとって、それは困難な長い旅路だ。が、生命力に満ちた二人には光が降り注ぐよう。すでに世界の映画祭で激賞され、15の賞(2026年4月時点)を獲得、各地で劇場公開も続く。映画もまた長い旅の途中にある。その最初の一歩となったベネチアの地で、公式上映翌日に藤元明緒監督にお話を伺った。
—–昨晩のワールドプレミアで、会場の反応は素晴らしいものでした。上映のご感想は。
夜明けても興奮しています。会場に入場した瞬間、うわーっと人がいるのがわかり、皆が映画の誕生を祝福してくれているようで、熱量を感じました。ロヒンギャの人々は国籍もステイタスもなく、存在を認められていないと言えます。でも、観客一人ひとりがこの映画を見ることによって、彼らの存在が可視化されたと感じました。映画体験を通り越し、ロヒンギャの人と共にいるという一体感を覚え、感動しました。泣くのをめっちゃ我慢してましたね。(笑)

—–今回主演のソミーラちゃんとシャフィくんはパスポートもなく、映画祭には来られなかったのですね。今彼らはどこにいるのでしょう。映画祭の出品はご存知ですか。
彼らは本当の姉と弟ですが、所在地は安全のため明かしていません。映画祭への出品は伝えていて、映画の(宣材の)画像が出回るよ、とは伝えてます。実は現地スタッフに鑑賞会を開いてもらい、彼らに作品は見てもらいました。2人は上映直後に感想は言いませんでしたが、ちゃんと観てくれたようです。親御さんは認めてくれて、「ほかのロヒンギャの人に見せても気に入ると思う」と言ってくれたのが、とても嬉しかったです。

—–2人は映画初出演とのことですが、演出はどのようにされましたか。
月並みな言い方をすると、シンプルに天才子役でした。僕からはそんなに特別な演出はしていません。ただ、ロヒンギャの人たちは文字を介して情報を伝達する術がないので、口頭で演出をしました。また、細かな演出の技術的なことより、彼らが安心できる環境作りを心がけました。二人ともリラックスしてやってくれたと思います。お姉ちゃんは何回も練習をするとうまく役に入ることができるけど、即興はあまりできないタイプ。ある時、僕がオッケーを出しても、「あんまり上手くいかなかった」と彼女が言ってきた時は、俳優の自覚が芽生えてきたぞと思いました。そのようにどんどん成長していくお姉ちゃんを見ていた弟も、影響を受けて同じ演技をするということもあったんじゃないかな。
—–彼らをどうやって発見したのですか。
もとの脚本では中学生くらいの男の兄弟の設定でした。でも小学校に取材に行った時、たまたま教室にいるシャフィくんの姿を見て、「この子には目が離せない魅力がある」と感じました。その魅力はスクリーンを通して見た時に、重要なものになると思ったのです。彼の家は小学校の横にあったので、ついて行って、彼にお姉ちゃんがいることもわかりました。2人が一緒にいる様子を見ていると、本当にキラキラとして、明るくて。彼らが出演してくれたら、厳しい社会的現実の背景の中でも、きっと太陽のような存在になってくれると思いました。それで相談をしたら、お母さんもオッケーで、本人たちもちょっと興味があると。そこから脚本も全部幼い子どもの設定に変えたのです。

—–なぜロヒンギャ難民を撮りたいと思われたのですか。
一番最初にロヒンギャ難民の迫害を知ったのは2013年頃。当時、ミャンマーで映画を撮ることになっていたのですが、現地で取材をすると、「ロヒンギャは民族として認めない」という意見が多かった。僕がこの題材を扱うことは難しく思われたので、その時はやめました。その後、映画『僕の帰る場所』(2017年)を撮り終え、ボランティア活動を通してミャンマー人である今の妻と出会い、結婚し、現地で住むようになり、ミャンマーという国の存在が自分の中でどんどん大きくなりました。
決定的だったのは2017年の大量虐殺です。ミャンマーでの仕事中、誰もその話題に触れようとせず、僕も何も言わなかったのですが、そのような状況に強烈な違和感を感じました。居心地の悪さが溜まっていく中、2021年にクーデターが起き、軍が一般市民を弾圧して多くの人が亡くなりました。その時、プラカードを持つミャンマー市民の中から、「あの時のロヒンギャの人たちの気持ちがわかる」と、声を上げる人も出てきたのです。僕は自分が映画を通して身近なことを描くと言っておきながら、一番目を向けなければならないロヒンギャの問題を意図的にスルーしていたと思ったのです。映画を作り続けていく上で、ここで無視をしては先に進めないし、彼らと一緒に映画を作りたい、そして映画作りを通して交流もしたいという気持ちに変わっていったのです。(聞き手 : 瑞)
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鰻は日本のより大きく、一口サイズの唐揚げみたいで、かなり美味だったとのこと。



