
先のカンヌ映画祭でコンペティション部門に選出された一本。監督はカンヌの常連で、『英雄の証明』はグランプリ、『セールスマン』は脚本賞と、高確率で受賞も果たしてきたアスガー・ファルハディだ。近年は外国映画も手がけるイランの巨匠だが、本作ではフランスの有名俳優を贅沢に起用。主な舞台はパリのレピュブリック広場近くのアパルトマンである。
小説を執筆中のイザベル・ユペール扮する作家は、自宅のアパルトマンから向かいの窓を観察し、想像力をかき立てる。覗き見されるのは、ヴィルジニー・エフィラ、ヴァンサン・カッセル、ピエール・ニネが扮する効果音の制作スタッフ。作家が創作する物語は、現実にも影響を与えてゆくようだ。

今年のカンヌでは、アルモドバル、是枝と並び、珍しく低評価をくらった三人の重鎮のうちの一人に。とはいえ、本作に関しては擁護をしたい。この作品はクシシュトフ・キェシロフスキ監督のデカローグ第6話のリメイク。愛と嫉妬に彩られた心理サスペンスだが、演技はやり過ぎ感があり、演出も確信犯的な遊び心が感じられた。カンヌの記者会見では、監督が俳優たちと軽やかに映画作りを楽しんでいた様子も伺えた。
その昔、アニエス・ヴァルダやシャンタル・アケルマンがコメディを撮った時、かなり酷評だったと聞く。監督が元来のイメージと乖離した作品を撮ると、ついていけない観客も多そうだ。シリアスな作風で知られるファルハディの場合、“遊び心”なるものは求められていないのかもしれない。だが、どんな監督も冒険をして、時には失敗する権利もあるだろう。虚実が乱反射する群像劇だが、パズルのように幻惑的な世界を積極的に楽しんでほしい。(瑞)

