山、川、滝、湖、谷間に隠れた村。この夏は、普段は注目されない「忘れられたフランス」が、バカンス客でにぎわった。新型コロナウイルス流行により、外国への入国条件が流動的で、国内でバカンスを過ごす人が急増したため。パリなど世界的に有名な観光地は大打撃を受けているが、一部の地方は「特需」に驚いている。
東部ジュラ県でバカンスを過ごした会社員のアンリさん(40)は「とても良い発見になった」と話す。毎年夏休みは国外に足を延ばし、この地方を訪れたのは初めて。コバルトブルーの湖で泳ぎ、壮大な滝や断崖に囲まれた集落を訪れ「思いがけず新鮮だった」と言う。外出禁止令中、パリのアパートで窮屈な思いをさせた子供に、大自然を謳歌させたいとジュラを選んだ。
驚いたのは、小さな村でも予約がないと入れないレストランが多かったことだ。山奥の滝も駐車場はいっぱいだったという。同県には、例年を大きく上回る数の観光客が訪れ、地元メディアは連日「ジュラ、観光客で混雑」などと報じた。ラジオに出演したジュラ観光局長は「宿泊率は歴史的に高く、7月後半と8月前半は100%」と話した。特に国内からの客が多かったという。
この現象は、通常あまり人気のない他県でもみられる。ル・パリジャン紙によると、6月15日~7月15日までに、Airbnbを通じた宿泊予約件数が、東部ヴォージュ、ジュラ、サヴォワ、南東部アルプ・ド・オート・プロヴァンス、西部ドルドーニュなどの海のない県で、前年同期比で80%~110%増加した。
またAFP通信によると、宿泊施設や公共交通機関を避けようと、欧州全体でキャンピングカーの利用も急増。レンタル・キャンピングカーのサイト「イェスカパ」では、7、8月の予約件数が前年同期比で60%増加した。
観光を人類学の観点で研究しているジャン=ディディエ・ウルバン氏は、ル・パリジャン紙上で、外出禁止令を経て、監視されず、人出の少ない空間を求める人が増えたと分析している。不特定多数の人と出会うビーチの楽しさとは違い、親しい人だけで過ごす楽しさという新たな娯楽が生まれるかもしれない。コロナウイルス収束後もこの傾向が続くかは疑問視している(重)。