ヴァイオリニストのジュリアン・ショーヴァンさんは、2015年に楽団を結成し「Le Concert de la Loge Olympique」(CLO)と命名したが、「Olympique」の名を独占したいフランスのオリンピック委員会から改名を求められたことを、カナール・アンシェネ紙が報じた。
ショーヴァンさんは、CLOはもともと、1783年に結成された楽団の名で、クーベルタン男爵の仏オリンピック委員会(1894年)よりも古いことや、楽団が、演奏曲が作曲された時代の楽器を用いる歴史考証的なアプローチをしていることなどからも、フランス音楽史の金字塔ともいえる楽団名の正当性をアピール、示談を試みた。
「ロージュ・オランピック楽団」は、フリーメイソンのOlympiqueロッジの会員ふたりによって1783年に結成されたものだ。秀逸の演奏家65人で構成され、サン・ジョルジュ(1745-99)が指揮する欧州屈指のこの楽団のためにハイドンやサリエリが作曲し、王妃マリー・アントワネットのお気に入りにもなった。指揮者サン・ジョルジュはグアドループで奴隷と植民者のあいだに生まれた人だった。音楽やダンス、剣術に長け、1753年にフランス本土に渡り、名ヴァイオリニスト、作曲家として活躍する。ヴァイオリン協奏曲や弦楽四重奏曲などの名作を残し、混血だったことから「黒いモーツァルト」の異名をとるが、ナポレオンは奴隷制度を復活させると同時に、彼の楽譜を焼いた(しかし作品は今日まで残っている)。
昨年末、ショーヴァンさんは仏オリンピック委員会の弁護士から「2月11日までに改名しないと法的手段に訴える」との勧告を受け、特許庁に申請した楽団名の抹消を余儀なくされた。現在、楽団名を取り戻すための署名運動を行っている。小さな芸術家集団の、権力と不条理との戦いだ。(集)
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