蕎麦が大好きな友人は、ざる蕎麦が運ばれてくるなり、3分足らずで胃の中に収め、お代わりを繰り返す。そんなに蕎麦が好きなら、岩手の「椀子そば」選手権に挑戦しろと勧めると、目を輝かせた。「蕎麦食って死ぬのが本望なんだよね」。人間は己の好物で挑戦を受けると、夏の夜の街灯に群がる虫のように我を忘れてしまうものらしい。
先月4日のル・パリジャン紙によると、クレルモン・フェランのバーでもウォッカベースのカクテルをショットグラスで56杯も立て続けに飲んで亡くなった、ルノーさんという55歳の男性がいた。
14年の10月24日、娘や友人と店を訪れた彼は、カウンターの上に「最高記録55杯」と書かれた石版を目にした。女子大生が主な客層という店の雰囲気に、男としての虚栄心をくすぐられたのか「俺は12ℓのウォッカが飲める」と豪語し、まず30杯を頼むと、次々と飲み干した。店主は「ここは飲みくらべの店じゃない」と止めたというが、ルノーさんの娘は「あと12杯だ!」などと店員たちがけしかけていたと証言している。
「若者には敗けない」と意気込んだルノーさん。新記録達成の56杯目が 「末期の水」となった。急性アルコール中毒で昏倒し、息を引き取った。
遺族は、客に対する注意を欠いていたとして、バーの店主を告訴した。一方、弁護側はルノーさんの自己責任を主張している。ちなみに、バーの名前は「Le Starter」という。バイオエタノールで走るF1カーのように客がアルコールをかきこんで冥土へと急発進してしまったことを考えれば、何とも皮肉な名前である。(浩)