名物会長ジル・ジャコブが引退し、総合ディレクターのティエリー・フレモー色が濃厚となったカンヌ映画祭。今年はコンペティション部門にふさわしいアルノー・デプレシャン、河瀨直美、アピチャポン・ウィーラセタクンら大物が別部門に流れ、その分新しい監督を積極的に紹介した。だがフタを開けると「なぜこの作品が?」と思わされることも多く、「低調なコンペ」と揶揄(やゆ)するメディアも目立った。とはいえ危険を冒し挑戦を続けるカンヌの勇気には敬意を表したい。
最高賞パルムドールは、フランス映画界の雄ジャック・オディアールの「Dheepan」が受賞。誰もが認める実力派だが、作品の評判はそこそこ。ジャーナリストと審査員メンバーの判断が乖離(かいり)した形に。筆者はソレンティーノのパルムドールを疑わなかったが無冠に終わった。他にもトッド・ヘインズ、ナンニ・モレッティ、ジャ・ジャンクー、グランプリを獲ったラズロ・ネメス作品の評判が高かった。
「Dheepan」は、家族の意味を問う作品が多い今年のカンヌを象徴する一本。タミル人兵士の男が、亡命のために見知らぬ女性と少女とで偽りの家族を作り、ディーラーがはびこるパリ郊外のシテに移住する物語だ。主人公ディーパンを演じるアントニータサン・ジェスタサンは、スリランカの反政府武装組織の少年兵として戦った後、フランスに亡命した過去を持つ人物。彼自身の50%が投影されたのがディーパンだという。実際の経験を背負う役者が演じているわけだが、映画はリアリズムに矮小化されることなく、オディアール流の見ごたえのあるロマネスクな骨太ドラマに仕上がっている。
8月26日公開予定。(瑞)