かつて各国のテレビコマーシャルを紹介して人気を博した番組があった。広告はその国ごとの常識やモノの考え方がわかるので面白い。
最近も「浮気専用」と銘打った出会い系サイトの広告をパリの地下鉄の駅で見て、「さすがフランスだ」と妙に感心した。もちろん、電車通学の子供たちもおり、眉をひそめる父兄もいた。
4月3日、RATP (パリ公共交通) の広告をめぐり、カトリックのお坊さんの抗議の声がメディアをにぎわせた。といっても、ハレンチな広告がやり玉にあげられたのではない。 「イスラム国」 の脅威にさらされた中東のキリスト教徒を救うため、彼らがオリンピア劇場で開くコンサートのポスターの掲示を拒否されたのだ。
RATP側は、政治、宗教性を露骨に表現したり、公序良俗に反する広告は禁止するという自分たちの規則を盾にした。ライシテを杓子定規に当てはめるなら、大聖堂を前面に出したアミアンやルーアンの観光広告もご法度ということになるが、今回問題となったのは、広告に記されていた「キリスト教徒を救え」という文言にあるらしい。カトリック系の新聞『ラ・クロワ』の社説によると、RATPは「いかなる紛争にも関与しない」という立場を通している。社説は1930年代の悲しい前例を引いて、このあいまいな中立性を批判した。当時も人道団体がドイツのユダヤ人の救援を広告で呼びかけようとして拒否されたという。
こうした世論の風当たりを受け、翌週、RATPは広告を受け入れることにした。さもなくば、浮気はよくても人道支援はダメという、いびつな常識がまかりとおるところだった。(浩)