ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが1971年に書いた戯曲「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」は、ファスビンダー自身が翌年1972年に映画化もしているので、記憶している人も多いかと思う。
今回、私の注意を引いたのは、ペトラ役を演ずるのがヴァレリア・ブルーニ・テデスキだということに他ならず、自身で監督もし、映画界での活動が現在は多い彼女だけれども、もともとは昨年亡くなったパトリス・シェローに育てられた舞台女優だった、ということを思い出したからだった。
デザイナーとしてすでに名声も成功も、そして富も手に入れたペトラという一人の女性がどうしても手に入れられないものがある。それは彼女が狂おしいほどに愛するカーリンという女性からの愛であり、カーリンの不在や裏切りはペトラを絶望の底へと突き落とす。愛は盲目、という言葉の通り、カーリン以外には何も目に入らないペトラへ献身的に尽くすアシスタントというか奴隷のようなマルレーヌ、カーリンに夢中になる母親ペトラを冷静な目でとらえる娘、そしてペトラの親友や母親、と登場するのは女性のみ。ペトラを中心にその女性たちの間で繰り広げられる愛憎劇が本作である。ファスビンダーの映画のほうがはるかに官能的だけれども、ブルーニ・テデスキのペトラは感情のかすかな揺れも見事に表現し、喜びの中にも退廃と悲壮感を漂わせる。彼女が1990年代の始めに映画「おせっかいな天使」 (ローランス・フェレラ・バルボザ監督)で演じた精神が不安定な若い女性を懐かしく思い出した。マルレーヌ役を演ずるロリータ・シャマ(イザベル・ユペールの娘)の抑えた演技もとても印象に残る。演出はティエリー・ド・ペレティ。(海)
火-土 21h マチネ 日16h。10€-44€。
Théâtre de l’Œuvre :
55 rue de Clichy 9e 01.4453.8888
www.theatredeloeuvre.fr/