デュマ、食の物語 -13-

  アレクサンドル・デュマの遺作は、死後の1872年に発行された『デュマの大料理事典』だった。世界に知られる大作家がこの作品の構想を思いついたのは1858年のこと。自身が創刊した「モンテ・クリスト」紙で料理本を執筆することを宣言し、台所にまつわる思い出話を披露している。12歳で狩りを始めたデュマは、森で捕獲した野うさぎやヤマウズラと引き換えにバターや卵、パン、ワイン、鶏などを調達した。仕留めた獲物を農家に持ち込み、釜を借りて料理をしたこともあったという。 
 そんな生活の中で「プリミティヴな」料理に手をそめたデュマは、「鶏のローストをするならば、串焼きではなくて紐をかけて吊るすに限る」と書き、後に出版された辞典にもその理由をとくとくと述べている。デュマによると、脚をしばった鶏を水平にではなく垂直に立ててローストしてこそ、ジューシーで味わい深い鶏肉が得られるのだという。そんな詳細な記述からは、フランス人の大好物である鶏のローストによせる作者兼料理人の並々ならぬ思い入れが感じられる。
 そんなデュマは権威あるアカデミー・フランセーズ入りを果たすことはなかったけれど、世界の読者に宝物のような名作の数々やレシピを残し、1870年にその生涯を終えた。
 同時代を生きたヴィクトル・ユゴーは、友人の死に際してこんな言葉を寄せている。「アレクサンドル=デュマは、文明の種蒔く人と呼べる者たちの一員だ。彼は、なんとも陽気で強靭な光を放ち、人間精神を清く正しく改善する。人間の魂と知性を豊かにする。書物を求める心を培い、人間の心を耕して、種を蒔くのだ」(辻昶、稲垣直樹著『アレクサンドル=デュマ』より)(さ)

 

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