オランド政権2 代目の首相に任命されたマニュエル・ヴァルス前内相が4月8日、国民議会で行った所信表明は、政治家の中でも異色を放つ言葉で始まる。「スペインから移住してきた者が首相の座につけるというフランス共和国の素晴らしさ!」と感動的。移民の子がフランス社会に同化し政治の道を駆け上ってきたのだ。パリ初の女性市長に選ばれたアンヌ・イダルゴもスペイン出身。
確かに2011年、社会党の大統領選予備選挙にオランド、オブリ、ロワイヤルらと肩を並べて立候補した40代のヴァルス党員が3年後にオランド政権の首相になるとは誰が想像しただろう。党内の派閥や社会主義ドグマも無視し、オブリ元労働相がジョスパン政権で敷いた週35時間制を「解くべき」と歯に衣着せぬ一匹狼。オランド大統領は彼の速球型ブルドーザー的気質を見込んで、一番国民の目につく内相(サルコジ前大統領も務めた)に任命。内相時代から人気のあるヴァルス新首相の世論の支持率は大統領18 % に対し58%。この関係をかつてのミッテラン大統領とミシェル・ロカール元首相の関係にたとえる向きも。故大統領にとって現実主義で人気のあったロカールは目の上のタンコブだった。ヴァルスは信念を貫いたロカールを尊敬し、その恩師マンデス・フランス(1907-82)を信奉する。
マニュエル・ヴァルスは1963年カタルーニャ人画家とスイス人女性の間に生まれ、フランコを逃れ少年時代にフランスに移住。パリ第I大学で歴史を専攻し1983年、20歳でフランスに帰化した。同級生ナタリー・スリエと結婚し4児をもうけるが、1990年にヴァイオリニスト、アンヌ・グラヴォアンと出会い2010年、矢継ぎ早の離婚、結婚と私生活も超特急型。彼女はクラシックとバラエティショーもこなしジョニー・アリディとも共演、ヴァルス夫妻は芸能界でも顔が広い。
新首相としての目標は、大統領のリフレイン「サンカントミリヤール(500億)の財政赤字解消」のため、100億単位の減税政策が連なる。企業の社会保障費負担を300億ユーロ軽減、SMIC労働者の社会保障費を免除し、彼らに年500ユーロの増収をかなえ、2020年までに法人税を現33 %から28%に下げる。15日ヴァレス首相は3年間でサンカントミリヤールユーロの赤字対策のための緊縮案を発表した。公務員給与や各種給付金を1年6カ月凍結し、公費節減と地方分権合理化のために県を廃止し、22地方を併合させ11にするなど、来年地方圏議会・県会議員選挙があるだけに賛否両論、抗議の火花が飛び散りそうだ。
内閣改造で首相の座をすすめられたファビウス外相は「新たな冒険」を辞退し、トビラ法相と共に留任。後者は海外県ギュイヤンヌ出身の黒人閣僚。昨年トビラ法相は保守派の攻撃と人種差別のいやがらせを浴びながら同性婚法を成立させた。彼女はどんな矢が射られようがびくともしない質実剛健な政治家。ほとんどが閣内異動の16人中、特筆すべきは、オランド大統領との間に4人の子供をもつセゴレーヌ・ロワイヤルのエコロジー省へのカムバックと、極左に近いアモン前閣外相の教育相への昇格。ソロ奏者ヴァルス首相と閣僚をオランド大統領がどう指揮していくか。(君)