ノルマンディーの海に浮かぶ聖地モン・サンミッシェル。かつてヴィクトル・ユーゴーは、「この自然と芸術の共同作品を、何としても『島』として残さねばならない」と力説した。このユゴーの意志を尊重するかのように、現在、世界遺産の美観を守るべく、工事が大詰めを迎えている。
工事とは新堤防道の建設のこと。1877年に設置された旧堤防道は、沖合1キロのモン・サンミッシェルに渡るのには便利だが、年とともに砂を堆積させ、陸地化を引き起こしてきた。そのため約20年前から、砂を堆積させない新しい堤防道の設置計画が進められてきたのだ。本計画に伴い、島のふもとに広がっていた駐車場も2.5キロ先の陸地に移転され、2012年からは島へのアクセスは主にシャトルバスで。新堤防道とその先の歩道橋の完成は、今年末を予定。
国が後押しする大計画だが、実は不満の声も多く聞かれる。まずはアクセスの不便さ。観光客は新駐車場で車を降りた後にシャトルバス乗り場まで約1キロ、またバスを降りてからはさらに400mほど歩かねばならない。これが原因か、2012年には観光客が10%減となった。加えて昨年末から、高潮時に非常通路として使えるスペース確保のため、岩石を削る工事が始まったのだが、「聖なる岩を削る必要が本当にあるのか」と非難が殺到している。
さらに表に出ない不満の声もある。モン・サンミッシェルには少数ながらも昔から住民がいるが、工事の影響で引っ越しを余儀なくされた人がいる。居住歴25年の男性は語る。「かつてここには学校もあり、島の生活があった。今は人間の本当の生活が消え、まるでディズニーランドのように人工的な場所になった」。50年前に200人以上いた住民も、現在は20人に。工事後に残る住民は、修道士と修道女ばかりとなるだろう。「私も来月、内陸へ引っ越します。駐車場がないと島での生活は無理。住民の意見を聞かず、工事が進められたのは残念です」(瑞)
1905年頃のモン・サンミッシェルの絵はがき。 当時は、列車が走っていた。
細い通りにみやげ屋が並ぶ。