— ワインを通して、伝統と 連帯の精神を確認する。
10月第二週目の週末の朝。小雨がぱらつくモンマルトルの丘には、どこからともなく黒いケープと赤いマフラーに身を包んだ集団が集まってきた。彼らは「モンマルトル共和国」の市民。恒例のブドウ収穫祭の式典がいよいよ幕開けるのだ。「モンマルトル共和国」とは文化・慈善活動を行うアソシエーション。昔日のモンマルトルの面影を宿したブドウ園は、フランス的な価値を重んじる彼らの心の拠り所だ。ここで育てられたブドウは、共和国市民やパリ市の管理のもと、収穫されてワインとなり販売される。収益はもちろん慈善活動に使われる。
式典が始まる頃にはすっかり雨が止む。ブドウ園の中には共和国のメンバーのみならず、色とりどりの衣装を着込んだ謎の軍団が仲間入り。よく見るとシャンパン、ホタテ、アスパラ、イチゴなどをイメージした正装であり、それぞれ名産品の宣伝マンになっているのがわかる。彼らは収穫祭の期間中、名産品のスタンドやパレードで活躍する。そして全体の雰囲気もひきしまってきたところで、ブドウの木に囲まれながら、共和国の大統領、共和国の姉妹都市の代表、パリ18区の区長らの演説に耳を傾ける。
見渡すと畑にブドウの実はほとんどない。それもそのはず、今年は9月末に676キロのブドウがすでに収穫済みなのだ。18区の区役所地下にはプレス機があり、約500リットルの赤ワインが生産される予定だという。ただしその味は賛否両論のよう。周囲の人にこっそり聞くと、「美酒ではない」、「実は飲んだことがない」、「でも最近品質が向上した」といった声が聞かれた。とはいえ、そもそもワインを通して伝統と連帯の精神を確認するのが目的だろうから、その大義は十二分に達成されているといえる。
式典の最後には鼓笛隊やアコーデオンの音が響き渡り、陽気な雰囲気を盛り上げる。そして天からは大粒の雨。まるで式典が終わるのを待っていたかのように降り出したのだった。(瑞)
ブドウ畑は広さ1556m2。向かいには 伝説的シャンソニエ〈ラパン・アジル〉。
モンマルトル産赤ワイン 〈Clos Montmartre〉は テルトル広場の観光協会で 購入可能。40€。
ペリゴール産イチゴ軍団のおじさんたち。