3月11日トゥールーズで兵士1人、15日モントーバンで落下傘部隊員2 人(3人ともアフガニスタン駐留経験ある海外県出身者)、さらに19日トゥールーズ住宅街のユダヤ人中高校でユダヤ教教師(30)と彼の4歳と5歳の息子2人、校長の7歳の娘と、8日間で7 人を連続射殺したモハメッド・メラ(23)は、22日、自宅のアパートに32 時間ろう城し、特別部隊との銃撃戦中、射殺された。その間、当局は彼の兄、イスラーム原理主義者アブデルカデール(29 )とその妻と母親を検挙し、兄を収監。兄弟は対テロ情報局のブラックリストに載っていながら犯人の割り出しが遅れたことと、監視の欠陥が指摘されている。
モハメッド・メラはろう城中、フランスの対タリバン・アフガン参戦とイスラエル軍の「パレスチナ児童殺害」に復讐(ふくしゅう)するためのジハード(イスラーム聖戦)と叫んだ。彼はトゥールーズで生まれ育った仏国籍者。5歳のときアルジェリア人両親が離婚(父は祖国に帰国)。非行少年として14歳から無免許運転、強奪・強盗などを重ね少年裁判、軽罪裁判で計21カ月の拘禁刑に。出所後、仏軍外人部隊に応募したが入隊を拒否された。刑務所内で、イスラーム過激派服役者の感化を受けたようで、2010年にアフガニスタン、2011年にパキスタン滞在中に現地警察が米軍に引き渡したが、仏当局はアルカイダに属さないとし放置。その後、イスラエル、イラク、シリアに「観光客」として滞在し帰国後、警察にも出頭していた。警察は彼をディスコやロデオサイクルに夢中の典型的郊外の青年とみくびっていたよう。が、兄アブデルカデール夫婦はエジプトでイスラーム過激派サラフィストとなり、ジハード志願兵を募るトゥールーズ支部にも出入りし、モハメッドに聖戦の夢を抱かせ誘導したとみられる。フランスからは10 人余がアフガニスタンでジハードの訓練を受けているという。
昨年5月、米軍がオサマ・ビンラディン殺害後、教祖的人物を失ったアルカイダは9・11のような大規模な国際テロは組織できなくなり、グループは細分化し、個々がアルカイダを名乗る傾向に(爆弾の作り方もウェブで)。メラのように社会的同化を拒み、ジハードに向かうのは意外に容易だ。最近公開されたフィリップ・フォーコン監督作品『La Désintégration 非同化』も、郊外の青年3人が、学業・研修、サッカーにも興味なく空き地にたむろしているところにイスラーム教化者が接近する。「おまえらはフランス人としては扱われない。真の兄弟はパレスチナやアフガンで闘っているジハード戦士なのだ」と説く。 迷える羊、3人は「NATO軍がアフガニスタンで自分たちの兄弟を殺害している」と信じこみ、ブリュッセルのNATO本部に車を突っ込み自爆する。彼らの家族は、イスラーム過激主義につかれた息子を正常な生活に引き戻すことの困難さに直面、彼らはもはや学校教育や社会規範の手の届かない所に。
連続射殺事件の衝撃が冷めぬなか、ゲアン内相は電撃的にイスラーム過激分子を3月30日17人、4月4日10人と大都市郊外で一斉検挙。2日、指導者3人と活動家2 人を強制送還させた。ジハード思想がネットで広がっているなかで付け焼き刃的措置ととれないか。サルコジ候補の支持率が1〜2%上がったとしても。(君)