指で触るのは厳禁。羽より軽い厚さ約0.1ミクロンの金箔だ。「作業中は外気を遮断。くしゃみも止める」。金箔職人&クリエイターのアントワーヌ・ルテリエさんが息を吹きかけると、金箔は緩やかに宙を舞い、「クサンcoussin(クッション)」と呼ばれる作業台に着地する。それから金箔は優しく、だが手際よくナイフですくいあげられ、ガラス面に貼り付いていく。彼の手にかかればフニャフニャ金箔も、なぜか吸い付くように真っ直ぐ並ぶから不思議だ。
現在金箔アトリエはパリに約20軒あるが「真面目な所は10軒位」だとか。これでも世界的にみれば優秀な方。16世紀以降イタリアや日本とともに金箔文化が開花したフランスは、今も外国からの注文が絶えない。基本技術は古代エジプトの昔からほぼ変わらないが、のりの使い方など国によりテクニックの違いも。フランスは動物性の接着剤ニカワを使用する「水貼り」が一般的。「金は不滅と権力の象徴」というイメージも後押しし、ヴェルサイユ宮殿やフォンテーヌブローの城、オペラ座の天井など歴史的建造物だけでも金箔使いの傑作が数多く残る。バスティーユ広場にある「七月の円柱」の先端で輝く自由の守護神像は、アントワーヌさんをこの道に導いた従兄弟ローランさんの作品。
またパン屋や肉屋は金箔使いで店名を飾ることが多いが、4区のショコラティエ〈Mussy〉の看板はアントワーヌさんが手がけた。さらに彼の場合は一歩進んで現代美術家とのコラボレーションだって果敢に挑戦する。「伝統を守るだけでなく、いつも新しい金箔使いを模索してる。でも『目によろこびを、生活にアートを』という思いは変わらないよ」(瑞)
Atelier Higué
144 rue de Bagnolet 20e
www.atelierhigue.com/
www.atelierhigue.com/
〈Les Canards, le Cadastre et la Marquise〉展でアントワーヌさんが手がけた羊の金箔の角を見ることができる。
10月22日迄。
Galerie Samy Abraham : 43 rue Ramponeau 20e
ミニ作業台「クサン」は、毛羽立ちが少ない 死産で産まれた子牛の皮で作られる。
まっすぐ金箔を置けるかが ポイント。
美しいモチーフの数々に目が引かれる。 作品は数時間から数カ月かかるものまで さまざま。
「日本人の金箔職人と技術交流をしたい」とアントワーヌさん。パートナーで グラフィックデザイナーの森田歩さんと。
© Stéphane Bellanger, Nicolas Milhé “Le retour à la nature”
東京にもアントワーヌさんの作品が。 (c)レストラン 天一 SEIBU池袋店, 設計:株式会社坂倉アトリエ