「まあ、9時。晩のお食事は、スープにお魚にポテトのフライに英国のサラダ。子供たちは英国のお水を飲んだわ。みんな、本当によく食べた。だってあたしたち、ロンドンの郊外に住んでいて、スミスっていう名前ですからね…」。こんなナンセンスな会話が続いていくスミス夫妻の夕べが描かれる『Cantatrice chauve 禿(はげ)の女歌手』。もう一つは博士号取得を目指す完璧な女学生と老いた個人教授とのやりとりが描かれる『授業 La Leçon』。いずれの戯曲もウジェーヌ・イヨネスコが1960年代初頭に執筆し、初演から同じ演出で今も5区のユシェット劇場で演じられている。私たちが観に行った日の公演は第17093回目! 同じ劇場でしかも連続してロングラン公演が行われているというのが凄い。これはギネスブックにも載る記録だという。
不条理、ナンセンス劇の作家として知られるイヨネスコ。まったく筋の通らない、時には空虚ともとれる会話の端々で、私たち観客を不安にさせたり煙にまこうとするけれど、置いてけぼりにされては大変! と作者の意図を考えながら速いテンポの会話を咀嚼(そしゃく)していくことがイヨネスコ劇のだいごみともいえる。心地よい頭の体操にもなる。すべて を理解したかどうかは別として一緒に大口を開けて笑っていた娘は、終結が少し残酷でも『授業』の方が好きだと言っていた。私は、うーん、どちらも捨てがたいかなぁ。(海)
“Cantatrice chauve” 19h/
“La Leçon” 20h。日月休演。
15€-22€(二つ続けて観ると割引有)。
Théâtre de La Huchette
Adresse : 23 rue de La Huchette, 75005 parisTEL : 01.4326.3899
URL : www.theatre-huchette.com