「ギャルソンの役目は、お客さまに満足してもらうこと」と言い切るシルヴァンさん。
ルマンに生まれ、15歳から、ギャルソンという職業に従事しているシルヴァンさん。「勉強することにあまり興味がなかった、というのが本音ですが、祖母がルマンでレストランを経営していたので、自然とこの道に進みました」
朝7時の出勤から21時まで、昼食の30分の休憩をのぞけば、立ち続けの働き詰め。「立ち続けることは慣れですね。働けば働くほど成果は自分に返ってくる
ので、やりがいがあります」。仕事を始めた当初は様々な粗相もしたが、17年めの32歳となった現在、ベテランの域に入る仕事ぶり。「数年前にパリに来て
からは、観光客相手のカフェなどで働きましたが、そこでのお客様に提供するものの質の荒さに辟易(へきえき)しました。ここ最近、特に観光客相手の店は増
え、本来のフランスの産物を提供する店が減っていると思います。それでも、観光客はそれぞれそれなりに『おいしい』と感じ、フランス旅行の思い出とするの
でしょう」
現在の、典型的な街のカフェ兼ビストロである〈Bistrot des
Halles〉では、2年半前から働いている。いい店に出会ったと思っている。「この店は、フランスの本物といえる食材やワインをサービスしているから、
私自身も自信をもって働くことができることが喜びになるし、本物への審美眼が日に日に磨かれているような気がします。これ宣伝抜きの本音ですよ」。常連の
お客さんたちが来るたびに、終始しっかりと握手をし、彼らの「いつもの」という注文に的確に応えていく。
ギャルソンの仕事は、店によってはお客
へサービスするだけだったりもするが、シルヴァンさんは、お客の対応もさることながら、カフェすべての仕事をこなす。とにかく毎日同じことの繰り返しだ。
一日に何百杯というエスプレッソを入れ、洗いたてのグラスをひたすら布巾でふいていく。その手さばきはプロならでは。ふき方のルールに従いながら、その仕
草の早さ、正確さ、ふき上がりのきれいさ!
そして店全体を常に清潔に保つことに留意する。真ちゅうのカウンターの汚れをスポンジでぬぐい、布巾で二度ふき、キュッキュッと磨いている姿を見ると、さ
ぞ家もきれいなのだろう、と想像してしまう。「家でまで掃除三昧(ざんまい)とはいきません。少しお金に余裕ができたので、今は週二回、掃除をしてもらっ
ています」
ルマンで働いていたときは、のんびりとした雰囲気と身内の店ということもあり、「慣れ」がだんだんと「飽き」に変わってきたのを感じ
た、という。パリに来て、週6日働いて、多くの人々に接することが、「そのまま自分の実力になる」と、最近思うようになったそうだ。また店次第で客の質も
量も違うが、「ギャルソンの役目は、お客さまに満足してもらうこと」と言い切る彼は、その場その場で柔軟に対応するのだろう。
将来は自分の店を持ちたい、という望みに燃え、理想とするカフェのあり方を探っている、シルヴァンさんの姿は、客である私たちを清々しい気持ちにさせてくれる。(麻)
Bistrot des Halles : 15 rue des Halles 1er
M°Châtelet 01.4236.9169
月-金7h-21h、土 -20h。日休。