●ピエール・エテックス
みずみずしく小気味よいコメディで映画史に名を刻むピエール・エテックス。先ごろ、エテックスは、馬鹿げた法律のカラクリのためにお蔵入りしていた自身の作品の上映権を、20年ぶりに取り戻したばかり。今月パリでは修復された彼の珠玉の傑作群がスクリーンに登場する。
5歳でサーカスの世界に魅了され、思春期にはアマチュア劇団に参加。20代半ば、画才にも恵まれすでにイラストレーターとして活躍していた彼は、ジャック・タチと運命的な出会いを果たす。以後タチ作品のアシスタント、そしてあまりにも有名なユロ氏のイラストの作者として数年にわたるコラボレーションへ。
その後は道化師としてステージに立ち、60年代には監督業にも進出。短編『Heureux anniversaire』はオスカー最優秀短編賞受賞。続いて『女はコワイです』、『ヨーヨー』、『Le Grand Amour』などの長編を連打。『ヨーヨー』を見たトリュフォーは「すべてのショット、アイデアが好きな美しい映画。多くのことを私に教える」と絶賛。
1974年には妻のアニー・フラテリニとサーカス学校を設立し、後輩育成に尽力。昨今はエテックスにシンパシーを寄せるジュネ、イオセリアーニ、カウリスマキといった監督の作品に出演。80歳を越えた洒脱なマルチ芸人エテックスの再評価は、今始まったばかりだ。(瑞)