5月のカンヌ映画祭で監督賞を獲得したマチュー・アマルリック監督『Tournée(巡業)』が公開された。マチュー・アマルリックといえば、当代一の売れっ子俳優。決して美男ではない。どちらかというと昆虫系(?)の顔立ちで小柄。でもなんか人なつっこい感じが無視できず、そうこうしているうちに人は彼のとりこになってしまう。多分フランスで今一番出演依頼が殺到している男優だ。
自分たちのことや自分たちの世界を描くことが主流のフランス映画で、本作はアメリカからフランスにドサ回りに来る巨乳ストリッパーのグループと彼女たちのマネージャーのちょっと切ない旅日記という異色作。でも、このマネージャー氏、かつては有能なTVプロデューサーだったらしいとか、離婚して二人の子供がいるとか、彼がドロップアウトした人生が見えてくるにつけ、そしてそれを演じているのがアマルリック自身だから、あ、やっぱり、ちょっとフェイントはかけているけど「僕の変形」を描くのが主目的かと思えてしまうと少々白ける。でも、彼の過去の監督作が、もう救いがたく自分を見詰めて嘲笑のネタにするようないただけない自己チュー映画だったのに比べれば、本作は題材がユニークな分救われる。
とはいえ、ドサ回りのガールズ&マネージャーという構図はロバート・アルドリッチ『カリフォルニア・ドールズ』だ。なれどストリッパーのお姐さんたちの、一流にはなれないけど頑張って工夫して一生懸命舞台を作る様に好感を抱く。そしてそれを見守るマネージャーの姿は、ジョン・カサヴェテス『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』だという説もある。が、どことなく漂ううらぶれ感は悪くなく、いつの間にか例のごとくアマルリックは監督としても人の心をつかんでいたのでした。(吉)