フランソワーズの城 –もしくはエルネスティーヌの部屋–
庭に面した小ぢんまりしたキッチンは、幼いプルーストが訪ねた時のまま残されている。入り口には、重要な登場人物のひとりであるフランソワーズのモデルのひとりになった料理女エルネスティーヌの写真が飾られている。フランソワーズは、この台所で早朝からかいがいしく働き、「からだの調子がよくてもわるくても、音も立てず、何かをしているというようすも見せないで、万事をうまくやってのけた」。
この部屋には、実際にプルーストが使用していた明るい茶色のコーヒー淹れや食器類、チョコレート・クリームを入れる金のラインがはいった上品な器などを目にすることができる。そういった貴重な遺品の数々が、「展示品」という趣でショーケースに入れられているのではなく、テーブルの上にぽんと置かれているだけ、というのもファンにとってはうれしい驚き。
台所は、マルセルの部屋に上がる階段のすぐ脇に。フランソワーズが手をかけてつくった羊のもも肉や鶏のロースト、クリームチーズやアーモンドケーキ、ブリオーシュがここでつくられたのかと思うと感慨深い。
エルネスティーヌ・ガルーは、料理女フランソワーズのモデル。意地悪いところもあったそうだが、料理の腕は誰もが認めていた。
プルーストが使っていたもの、ゆかりのあるものが集まったテーブル。なぞ解きのようで面白い。三角山のかたまりは、当時使われていた砂糖。必要分だけ削って使っていた。
このコーヒー淹れで晩年のプルーストにコーヒーを準備したのは、セレスト・アルバレという女中兼秘書。
フランソワーズが得意の素晴らしいチョコレートクリームは、こんな繊細な器で供された。小説では、このデザートは語り手の父の大好物となっている。
プルーストの伯父ジュール・アミオは、アルジェリアに頻繁に通った。壁際のタイルはその影響。当時のまま残っている。