●Le mec de la tombe d’à côté
この戯曲の原作は、スウェーデン人ジャーナリストで作家のカタリナ・マゼッティの作品。夫に急死された若い未亡人と、最愛の母親に死なれた、牧畜業を営む50歳前の独身男性が、隣合う墓に参る度に、互いに惹かれ結ばれる。初めは気持ちも高揚しているし、相手を、そして自分の知らない世界を発見することを新鮮に感じていた二人。けれど、 関係が安定していくうちにショーペンハウアーを愛読する未亡人と、愛読書は子供用漫画雑誌という男性の間に接点がほとんどない、ということに二人は気づく。そして「急がしい」「疲れている」ことを理由に二人の間の距離はどんどん広がり、たまに会えば口論や喧嘩が絶えなくなる。
冒頭で未亡人は「5年間も一緒にいたのに、あなたのことを何も知らなかったことに気づいたわ」と夫の墓に話しかける。「他人のことを知る」「知っている」とはどういうことだろうか?その前に私たちは自分についてどれだけのことを知っているだろう? 彼女を喜ばせようと自分なりに努力を重ねる男は「女は面倒くさい、牛のほうがよっぽどわかりやすいよ」と嘆息する。
いつかは墓場で隣人になれるね、と出会いの場所だった墓地のベンチで二人は別れを告げ合う。タイトルは『隣の墓の男』となっているけれど、裏タイトルは『私の隣で眠る男』ということになるのかもしれない。舞台化のために脚本を担当したのはアラン・ガナ、演出はこの欄で紹介した戯曲『Journal à quatre mains』と同じパンチカ・ヴェレズ、二人の役者アンヌ・ロワレ、ヴァンソン・ヴィンテーアルターも息の合った演技を見せる。(海)
Théâtre du Petit Saint-Martin :
17 rue René Boulanger 10e 01.4202.3282
火-土20h30、土マチネ17h30。10€-30€。