10月21日から11月23日までパリ軽罪裁判所で開かれているクリアストリーム民事裁判。その原告40人余の中の1人がサルコジ大統領、被告5人の1人がドヴィルパン前首相で、法廷での大統領と前首相の前代未聞の対決裁判とみられている。
裁判までのあら筋を追ってみよう。ルクセンブルグの国際金融機関クリアストリームの会計監査にあたったF. ブルジュが02年1月、元リベラシオン紙記者・金融汚職関係作家D. ロベ−ルに金融顧客リストを渡す。03年2月、同作家からトレーダー、イマド・ラウに同リストの入ったUSBメモリが渡された。ラウ被告は自分が偽造したと自供、同金融機関の口座所有者として左派政治家も含む政財界人約900人の中にPaul de NagyとStéphane Bocsa、つまりサルコジ当時経済相の洗礼名も入った氏名Nicolas Paul Stéphane Sarkozy de Nagy-Bocsaを加えていた。
03年10月ラウが欧州航空・宇宙企業EADSの上司ジェルゴラン元副会長に偽造リストを提出。後者から金融汚職疑惑を知らされたドヴィルパン当時外相は国防省諜報部ロンド将官に「大統領の指示」とし(07年6月シラク前大統領はこの点を否定)、偽造リストの調査を依頼した。04年1月9日、ド外相は両氏を外務省に呼び出し、この時ロンド将官は「(シラク)大統領と私の名が出たら破滅だ」と言ったドヴィルパン外相の言葉や「サルコジの名も出る」と一字一句手帳にメモ。同年5月ジェルゴランが匿名で2回にわたりルインベク判事(台湾とのフリゲート艦疑惑担当)に偽造リストとCDを送付している。
06年1月、偽造リストにあったサルコジ当時内相他、政財界人40人余が上記5人を誹謗告発罪・共犯・偽造文書行使・背信行為・窃盗隠匿容疑で提訴。07年大統領選サルコジ候補の顔に泥を塗ろうとした首謀者は誰なのか。サルコジ大統領にすれば宿敵ドヴィルパンしかいない。「首謀者は探し出して肉屋の鉤(かぎ)に吊るしてやる」と当選後もサルコジ大統領は諦めない。
9月22日、N.Y.からのTVインタビューでもサルコジ大統領は「犯人を裁判で裁く」と、推定無罪の被告を犯人扱いしたことでメディアと被告側は騒然。ドヴィルパン被告は推定無罪法違反で大統領を提訴すると反撃。しかし在任中、免責特権を有する大統領を同法違反で提訴しても受理されない。提訴時は内相だったが、今日全権力を掌握するサルコジ大統領が原告側に立つことの不平等性をド被告は糾弾する。
法廷でジェ被告は「(ルインベク判事に偽造文書を送ったのは)ド前首相の指示に従った」「偽造とは知らなかった」と証言。が、ドヴィルパン被告は「偽造リストのことなど全然知らない」とジェ被告の証言や、ロンド将官のメモに関する証言も全面的に否定。被告同士の泥仕合がつづく。
宿敵への復讐心に燃える大統領と、その被迫害者を演じる前首相、二人の決闘の果ては?(君)
写真:9月25日付リベラシオン紙の表紙。