「シンデレラ」とは、サルコジ大統領が内相時代に見出し、セシリア元サルコジ夫人に彼女の「妹」と可愛がれ、サルコジ新政権で法務相に抜擢された43歳の新星ラシダ・ダチ氏。
彼女はパリ郊外に暮らすアルジェリア・モロッコ系移民家族の12人兄弟の一人。サルコジ大統領が打ち出した内閣の「多様性」を示す看板娘ダチは、大統領離婚前はセシリア夫人の腹心、離婚後大統領の独身時期は訪問国でファーストレディ役を務める。大統領再婚後も公式ディナーなどでカーラ夫人に負けずディオールのデコルテのドレス、黒のパンツスーツの時もピンヒールスタイルが身についてしまい、会議や拘置所訪問にも法相らしからぬスタールック。大統領の庇護のもと、昨年地方選挙に当選し、パリ一のブルジョワ地区、7区の区長に就任した。
しかし、大統領寵愛の大臣も昨年夏ごろから司法関係者の間で彼女に対する憤懣・反発が爆発、法務省の20人以上の部下・顧問らが次々に辞任し、嫌われ大臣になりつつあった。彼女が強行した「司法管轄合理化政策」や「少年法の改正」「累犯者の重刑化」などすべて大統領の公約で、彼の意に添うために忠実に実行したにすぎない。だが彼女の威圧的ごう慢な態度が与党議員や閣僚たちにも鼻につき、大統領もクリアストリームなど複雑な政財界疑惑などはダチ法相から取り上げ、司法顧問ウアール氏に委任している。「12歳からの拘留法案」公表の翌日、フィヨン首相が強い反対意見を発表したり、リベラシオン紙記者の不当な逮捕問題では大統領自身が法相を批判するなど、申し合わせたようにダチ法相いびり出し作戦を開始した。
そのうえ彼女は、回教徒ながら父親の名も発表せずに1月2日、帝王切開で女児を出産。5日後に高いハイヒール姿で閣僚たちの冷たい視線を浴びながら年始の閣僚会議に出席している。
ダチ法相と同様に異色の、初のアフリカ出身閣僚ラマ・ヤド人権保障閣外相の取り扱いも問題になっていた。クシュネール外相配下のヤド氏のマスコミでの個人的意見の乱発が目立っていたからだ。昨秋、大統領が6月の欧州議員選挙に与党UMPからの出馬をすすめたが、彼女にとってEU議員になることは左遷を意味する。大統領の命令に従わなかった彼女にクシュネール外相が年末、「外務省には人権保障閣外相は不要」と公言し、イヤな小姑役を引き受けている。
EU選出馬を拒んだラマ・ヤドの代わりにダチにお鉢がまわる。内閣ミニ改造にかこつけて大統領は1月22日、ダチ法相にEU選出馬を強要、窓際への裏口を示す。それもイル・ド・フランスからの候補リスト筆頭でなくバルニエ農業相の次席。サルコジ宮廷の元寵愛大臣の身の寄せ先が決まり、政府が送る遠地の一兵卒に。(君)