歌うという行為、 うそは許されない。 “Le Plaisir de chanter”

 今月のおすすめは『Le plaisir de chanter  歌うよろこび』。とても変な映画。ふつうじゃないから面白い。登場人物も映画のジャンルも型にはまってない。雑然とした感じが好き。お話の筋道としてはスパイ映画というか…、殺されたウラニウム商人とともに消えたUSBメモリのありかを探る秘密工作員たちの画策だが、まずロラン・ドゥッチとマリナ・フォイ演じる工作員カップルがずっこけている。つるんでじゃれ合ってる場合じゃない。お前らマジメに仕事しろよ!  である。スパイのお仕事なんてとっても刺激的であろうに、この二人は仕事にさめてしまってんのね。USBメモリのありかの鍵を握ると思われる最重要人物は、ジャンヌ・バリバール演じるウラニウム商人の未亡人だ。彼女がまた、演技なのか本性なのか微妙だが、とてつもなく無邪気というか垢にまみれてないというか世間知らずというか、必死の周囲を煙に巻く存在だ。さてこれからが本題…?
 未亡人は歌唱のレッスンに励んでいる。彼女に接近するために、くだんの工作員カップル他が歌唱教室に集まってくる。先生役の本物の先生、エヴリーヌ・キルシェンボームの前では、皆たじたじだ。歌うという行為、人前で声を発するという行為にうそは許されない。いやでもおのずと裸の自分に返って真摯に取り組まざるを得ないのだ。こういうの恥ずかしくて退き気味の人も次第に自己解放するよろこびのようなものを覚える。現代人がストレスの塊だとしたら、こういう時間を持つべきだと、登場人物とともに体感したような気分にさせてくれる映画だ。
 監督のイラン・デュラン・コーエンの一味違った映画へのアプローチには今後も期待したい。また特筆すべきはジャンヌ・バリバール。彼女の特質が今まで最も活かされた役かも。(吉)


 

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