パリ5区の警察署に連行されてくる人々を撮影した『Faits divers』と、シテ島にある病院の救急精神科を撮影した『Urgences』。写真家であり映画監督でもあるレイモン・ドパルドンが、1983年と1988年に発表したこれら二つのドキュメンタリー映画を観て以来、ザブー・ブレイトマンの頭には幾人かの表情とシーンがこびりついて離れなかったという。ドキュメンタリー映画を舞台化することへの挑戦、ドキュメンタリー中の登場人物たち、つまり実際に存在する人々を、どうしたらフィクションである舞台作品の中に取り入れることができるのだろうか?
仕事に嫌気のさしたバス運転手、人生に耐えられないと訴える主婦、自殺未遂を計った少女、「モラルを病んでいる」と語る定年退職者… 各シーンの登場人物は2名、演出も担当するブレイトマン自身とローラン・ラフィットという若い俳優によって演じられていく。取り調べをする警察官と軽犯罪者、非行少年と心理学者、自殺志願者と精神科医、入退院を繰り返す患者と救急隊員…彼らのやりとりは、時に滑稽で笑いを誘うけれど、その笑いの奥には自分を見失った人間が助けを求める姿があり、これらの場面を選んだブレイトマンの温かい視点が感じられる。「もしかすると明日は私も…」と思いながら最後まで飽くことなく時間が経っていった。一緒に観た友人は映画作品のこともよく覚えていて「フィクションなのだからもう少し脚色したほうがよい」と感想を述べていた。難しいところだけれど、脚色しすぎることによってこの作品の本質が失われるのも残念だと私は思う。(海)
Théâtre Petit Montparnasse :
31 rue de la Gaité 14e 01.4322.7724
11/23迄。火~土19h、日15h30。
10€-34€。