フランスの商店の日曜営業禁止は、日曜日に買物することが当たり前な日本人にとってはちょっと不可解だ。日曜営業禁止の法的根拠、罰則などはどうなっているのか、実際に日曜日に働いている人はどう思っているのかを探ってみた。
シャンゼリゼ大通りのルイ・ヴィトンや郊外の大型ショッピングセンターの日曜営業に関する裁判がしばしばメディアを賑わせるフランス。日曜日に働かないのはキリスト教の安息日の伝統であるが、労働法221条にも「被雇用者(サラリエ)は週6日を超えて働いてはならない。週の休みは日曜日でなければ ならない」と明記されている。
この条文には例外も記されていて、交通機関、観光地、文化・スポーツ・レジャー施設、保存不可能な食品産業、管理人、ホテル、飲食業、病院など。食料品店の場合は日曜の正午まで営業できるので、月曜日の正午までを休みとするケースが多いが、その他の場合は他の日を非営業日とするか、ローテーションで代休を与えることが義務付けられている。観光地については、知事の許可を得ると営業が可能(パリのシャンゼリゼ大通りやマレ地区などがこれに当たる)で、食料品以外の小売店については、市町村長(パリの場合は知事)の許可によって、年5回まで日曜日も営業できる。デパートやブティックがクリスマス前やバーゲン中に特別に日曜営業するのはこれに当たる。
よく裁判になるケースは、「日曜閉店が公衆に損害をもたらすか、企業の正常な機能を脅かす場合」という例外条項だ。申請して認められれば、知事が最長3年間の期限付き営業許可を与えられる。大都市郊外の大型ショッピングセンターなどがこれに当たり、日曜営業が住民や店にとって必要不可欠なのかどうかが争点になる。
このような例外事項にも当てはまらず許可なく日曜日に営業すると、日曜日1日当たり最高1500ユーロの罰金が課され、さらに10〜30日の禁固刑が課される可能性もある。1年以内に再度違反すると最高3000ユーロまで。何度も違反すると、日曜日に働いた従業員数に応じて加算されたり、同地域の商店への損害賠償支払いが命じられたりする場合もあるので膨大な金額になる。
法律でも保障されている休息日である日曜日に人を働かせるとなると、もちろん給与が割り増しになる。ローテーション勤務の製造業などでは、日曜日の給与は少なくとも50%増しに、デパートなどの年5回までの例外的日曜営業では平日の倍の給料を支払うことが労働法で規定されている。それ以外は業種ごとに労使が交わす労働協約によって定められているようだ。
商店の日曜営業について一般のフランス人はどう思っているのだろう。2006年6月にIFOPが行った世論調査では、日曜営業禁止の法律緩和に「賛成」と答えたフランス人は56%。04年の同様の調査(46%)から10ポイント伸び、「反対」に逆転した。パリ首都圏に限ると75%で、若い人(35歳未満では61%)、右派支持者(63%)ほど割合が高い。1996年には欧州裁判所が休息日を日曜に限ることに否定的な判断を下し、国内でも法改正の動きもあるように、時代の流れが日曜営業に向かっているのは確か。日曜日は働かない、というフランスの伝統がどこまで守られるのだろうか。(し)
ニコラ・エノーさん(38歳)
ヴァージン・メガストア シャンゼリゼ店副店長
16年間小売業で働いているから、日曜日に働くのは慣れている。妻も航空会社で働いているので日曜日にも勤務があるし、娘が一人いるけど、そういう働き方でずっと生活をオーガナイズしてきたからね。妻とはお互いの休みをできるだけ合わせるようにして、できる限り週に休みを2日とるようにしている。私にとっては、日曜日は他の日とまったく同じだね。土日は売上げが多いから営業しないわけにはいかない。店は毎日10時から24時まで(日曜日は12時から)営業しているから、店員は2交替制、店員の平均年齢は27歳と若い。独身の人が日曜日に働いていると思うかもしれないけど、日曜日は給料が倍になるし、けっこう子持ちの人が希望してくるよ。
ラファエル・ドスサントスさん(24歳)
マレ地区のスポーツシューズ店 店員
ぼくは日曜日に働くのがけっこう好きなんだ。平日は客が少なくて退屈だけど、日曜日は客が多くて活気があるから。日曜日に働きたいかどうかは、その人のパーソナリティーによるんじゃないかな。勤務は週35時間制で、週5日11時から19時まで、木曜日と金曜日に休むことが多いけど、他の人との関係で変わることもある。平日に2日休みがあるから、買物とか用事はできるし、朝が遅いから夜遊びに行ってもOKだし、まだ若いから別に不便は感じないな。日曜日に働くのは希望者だけで、給料は50%増し。でも、日曜営業を全面化するのは反対だね。そうなると日曜日に働きたくない人まで働かざるをえなくなる。やっぱり日曜は休む日だもの。
ステファン・モアさん(38歳)
レストラン「ル・トロワ」オーナーシェフ
観光客の多いマレのこの地区は日曜営業のニーズがあるから開けている。借金も返さないといけないし、純粋に経済的な理由から営業しているんだ。その必要がなければ開けない。だから客の少ない11月から3月までは日曜営業をしない。私だって週末は妻や二人の子供とゆっくり過ごしたい。土日の昼はやってないし、月曜日は定休日、プラス週日に半日休みを取れるから、従業員は週に2日半の休みがある。この業界の労働協約に則っていることだ。レストラン業は仕事がきついし、人が休む時に働くのは従業員もわかってくれている。それでも日曜日に働くことは「犠牲」だと思っている。売上面で日曜日に開けなくてもよくなれば、私も従業員もその方がいい。