競馬に行く前に名馬のルーツを調べるため生産牧場を見学した。ノルマンディー地方のカン市の近くにある〈Haras du Pin〉は18世紀初めに建てられた1000ヘクタール以上の広大な面積の国立生産牧場である。世界一有名といわれるこの牧場は、ナポレオン3世も訪れたという歴史を持っている。そのため正面入り口にはナポレオンの象徴であるミツバチを施した立派な門がある。また、牧場内にはお城があり、その豪華な様子から「馬のヴェルサイユ宮殿」と呼ばれている。
この牧場には150頭以上の馬がいて、その中で将来の競走馬のお父さんとなる種牡馬はサラブレット5頭、トロッター(速歩競走を得意とする馬)6頭。もちろん彼らは現役時代に数々のレースを勝ってきた名馬たちだ。種付け料は2000ユーロ以上。速歩競馬で活躍したラティニュス、インゲン、ワーカホリックに会うことができた。3頭とも広大なノルマンディーの牧場でのんびりと暮らしている。ラティニュスに近づくと肩を噛まれそうになった。最近までレースで活躍していて、速歩競走の主要なレースに勝ち続けた馬だけに血気盛ん。インゲンも引退したとは思えないほど若々しい馬。一方24歳のワーカホリックは顔に白髪が目立つお爺さん。穏やかな表情。人間でいうと80歳ぐらい。ワーカホリックは種牡馬としての役目も終え、「人間国宝」ならぬ「馬国宝」としてここで暮らしている。
毎年春が出産時期なので、夏に行くとちょうどお母さん馬と厩舎に入っている赤ちゃん馬の姿を見られる。ここで生まれた馬たちは、放牧されてトレーニングされた後、お母さんと離れて、セリ市に出されて馬主さんに買われることになる。
◆〈Haras du pin〉へは:
パリから国道RN26で180km、またはSNCFのArgentan駅より15 km。
www.haras-nationaux.fr/portail/
〈ラティニュスとインゲン。 Haras du pin〉
正面玄関。
馬国宝ワーカホリック24歳。
平地競走 Plat
日本でおなじみの駆け足galopで速さを競うレース。有馬記念の覇者、オリビエ・ペリエ騎手やクリストフ・ルメール騎手が見られる。4月、5月の日曜はロンシャン競馬場の入場料は無料だし、他の競馬場でもサービスデーが頻繁にある。ピクニックスペースへのアクセスはタダのため、家族連れやカップルが多くほのぼのした雰囲気。10月の第1日曜日の凱旋門賞は世界一の馬を選ぶレース。今年は10月1日に開催。日本の夢を背負ったディープインパクトが出走する予定。
障害競走 Obstacle
駆け足galopで障害を飛んだり山や谷を越えたりするレース。ハードルHaie、スティープルチェイスSteeple chase、クロスカントリーCross countryの3種類がある。障害競走の専門競馬場はパリジャンが気軽に行けるオートゥイユ競馬場。毎年5月末に行われる〈パリ大障害〉は、5800メートルの長距離に23の障害が仕掛けてある迫力満点のレース。平地競走に比べて落馬が多く、脱落者が出てくるため、手に汗握る。障害競走のスター騎手はクリストフ・ピュー騎手とジャック・リクー騎手。
繋駕(けいが)速歩 Attele
速足trotで競われる。速足とは2拍子で馬を走らせる走法。この競走では通常私たちが見慣れているパカラッパカラッと3拍子で進む駆け足をすると失格になる。サラブレッドではなくトロッターという種類の馬が走る。日本では30年前に廃止され、イギリスにも存在しない。ローマ戦車のような2輪車を引き、その上にヘルメットをかぶった騎手が足を広げてつかまっている。そのため、この競技では騎手のことをjockeyとはいわずにdriverという。そのマッチョな雰囲気から繋駕速歩ファンは男性が多く、観客席は庶民的な雰囲気。思わず “Allez! Allez!”と声が出てしまう。また、馬の現役期間が平地競走に比べて長いため(10歳ぐらいまで走る)、強い馬にはファンがつき、馬名入りの幕を広げて応援する人たちも。速歩レースのメッカはヴァンセンヌ競馬場。4月から10月にかけて開催されるナイターが人気。スター騎手はジャン=ミシェル・バジール。圧倒的人気の馬はジャグ・ド・ベルエット。
騎乗速歩 Monte
同じく速足だが、こちらは2輪車を付けないで騎手が鞍上に乗る。繋駕速歩レースの合間に行われる。繋駕速歩よりも人と馬の密着感があり、重さが軽くスピードが出るため、馬が駆け足をしやすくなり、かなりの技術が必要。失格が多く緊張感は格別だ。女性騎手ナタリー・アンリが大活躍。エリック・ラファン騎手やマチュー・アブリヴァール騎手など若手も活躍。大半の騎手は繋駕速歩レースと兼業だ。
◆平地競走と障害競走はフランス・ギャロ主催:http://www.france-galop.com/fr/
繋駕速歩と騎乗速歩はシュヴァル・フランセ主催:http://www.cheval-francais.com/