ドミニク・モル監督5年ぶりの新作は、やはり微量のコメディーを加味した巻き込まれ型スリラー。愛する妻とやりがいのある仕事を持つエンジニア、アラン。ある時、ハムスター似の小動物“レミング”が水道管に入り込んでいるのを発見する。同時に、一度会ったきりの上司の妻が、レミングさながら彼の生活に割り込んでくる。
ぱっくり口をあけた真っ暗闇の水道管は、危険な世界への入口。日常と非日常とをつなぐパイプは、どこにでも存在するのだ。すべてがどこかに有機的につながっていくようなシナリオは、カンヌで賞を獲らなかったのが惜しいほど。21世紀のヒッチコック候補モルの職人技が眩しい力作。(瑞)
●Le Crime farpait
デパートを舞台にしたセドリック・クラピッシュ監督の『百貨店大百科』(1992)のほのぼのした雰囲気とは打って変わり、「璧完な犯罪」と名付けられたこの作品では、マドリッドのデパートで働く主人公が巻き込まれる殺人事件、そして事件目撃者から脅迫される主人公が過ごす悪夢の日々が描かれる。アルモドバルに発掘された若手監督アレックス・デ・ラ・イグレシアスの手にかかると、サスペンス、ホラー、スプラッターという映画ジャンルはごちゃ混ぜになり、ブラックユーモアいっぱいのキッチュなコメディーができ上がる。モニカ・セルヴェラの強烈な顔立ちと悪女ぶりに今夜はうなされそう。(海)
Charlotte Rampling
シャーロット・ランプリングは、いかにもモデル出身の冷たげな美貌が年とともに氷解し、まさに今が飲みごろの熟成ワインのよう。公開中の映画『Lemming』では、彼女の暴力的な闖入者ぶりが、物語に怪しい影をじっとり落としている。
1945年イギリス出まれ。父は陸軍将校、母は画家。思春期にはフランスのフォンテーヌブローに住んでいたことも。64年にリチャード・レスター監督の『ナック』で端役デビュー。類い稀な美貌と語学力で、ヴィスコンティ、カヴァーニ、リプステイン、アレン、ルメット、大島、セローらの作品に参加。特にナチ帽と裸の胸にサスペンダー姿で踊った『愛の嵐』(74)や、チンパンジーを愛人に持つ大使館員夫人に扮した『マックス、モン・アムール』(86)で世界に衝撃を与えた。エロチックなしゃがれ声は、どこか狂気や不道徳への境界をさまよう姿によく似合う。
80年代半ばから仕事が停滞するが、夫を失った中年女の葛藤を綴った『まぼろし』(00年)の大ヒットで完全復帰。実生活で母と姉を同時に失った経験のある彼女が本作に込めた思いは計り知れない。『まぼろし』の監督フランソワ・オゾンとは、『スイミング・プール』(02年)でも再びコンビを組む。現在、ハリウッド大作である『氷の微笑2』と、ローラン・カンテ作品『Vers le sud』の準備中だ。(瑞)