この号の10ページ “Balade” で取り上げられているサン・ジョルジュ界隈は、パリの中でも最もロマンチックな地区として〈ヌーヴェル・アテネ〉と呼ばれてきた。ジョルジュ・サンドで有名なロマン派美術館や、ロートレックが晩年を過ごしたフロショ大通りがあり、19世紀には多くの文化人に愛された。扉にギリシャ風の円柱を施したネオクラシック様式の建築や、個人の邸宅が立ち並び、レトロなパリの面影を残す、穏やかな街並み。 この界隈に、さりげない風情の小さなビストロがある。〈Casa Olympe〉。シェフのオランプ・ヴェルシニさんは、料理学校やレストランでの修業経験なし。料理上手が高じて、主婦から料理の世界に入った。20代の半ばで脚光を浴び、一躍時の人となったが、時代の流れに逆らえず、やむなくモンパルナスの店を閉店。高級ホテルやレコード店で、レストラン部門の顧問をした後、意を決して右岸にやってきた。 「パリの人々は、左岸の人は左岸での、右岸の人は右岸での生活を大事にし、互いの領域がはっきりしている。未知の右岸には、願をかける思いもあったの」。〈ヌーヴェル・アテネ〉でビストロを再開し、はや12年目を迎える。 今は店から目と鼻の先に居を構えるが、実はルーツをコルシカにもつ、親子4代にわたる左岸生まれ。南仏で過ごした青春時代をのぞくと、左岸を離れたことがなかった。「こっそり告白すると、セーヌの向こう側の方がずっと好き。今でも心は左岸にあるわ」。ここから南へ下っても、北へ上ることはまずないという。彼女にとっての公園は、北のモンソーではなく、南のリュクサンブール。根っからの左岸派である。 香辛料やハーブをふんだんに盛り込んだ、独創的なスタイルを持つ彼女の料理のファンは多い。インスピレーションの源は、なんといっても旅行。「各土地での体験を、自 分の料理に活かすのが楽しいわ」。モロッコやタイの旅は、エキゾチックな風を吹きこんだ。「世界中を旅したけど、今は南仏、イタリア、スペインを交互に巡るの。ついつい南へ足が向く性分ね。パリでも外でも」。自らを《パリのコルシカ人》というように、地中海のエスプリを、お皿の上で表現する。 南の陽光と香りに魅せられたパリジェンヌの肖像が、ここにある。(咲)
|
Casa Olympe :48 rue St-Georges 9e 01.4285.2601 |
●Chez L’Ami Jean 「外食は二、三の馴染みの店に繰り返し通う」とヴェルシニさん。その一軒がこのお店で、目にも舌にもうれしいお皿の数々は、バスク地方料理とビストロ料理が中心。主菜にはココット皿に入った、具だくさんの温野菜と、おかわりしたくなるジャガイモのピュレがついてくる。こちらはロビュションと同じジャガイモ専門農家から、パンはプージョランの田舎パン。昼も夜も3品で28€のコースはお得です。夜は予約をお忘れなく!(咲) |
27 rue Malar 7e 01.4705.8689 M。La Tour-Maubourg 日・月休み。 |