ジェレミーはテレビ司会者の助っ人。仕事柄、著名人らとリッツやブリストルなどシックな場所に出入りする昨今だが、彼自身は子どものころと何ら変わっていない。 彼にとってパリはバカンスを過ごす神話の町だった。夏になるとわびしい実家の町から、はやる心でパリの親戚の家に転がり込んでは夢の大都会を凝視したものだ。「当時僕の町にはなかった、ピッツァ・ピーノやバーガー・キングがあったんだ」。 その後18歳でメディアの勉強のために上京。カフェテラスで時を過ごし、メトロの中で人々の顔の裏にある生活を想像して楽しむ…。徐々に、日常の些細な事象が見えてくる。 仕事場はエリゼ宮と目と鼻の先、フォーブール・サントノレ通り。生活感がないこの地域でも、ビストロでは、額縁職人や肉屋、靴の修理屋、コルシカ料理屋の店主(その後ボスに差し入れを買うようになった)らの《パリの生活劇場》が健在であることを確認した。パリの特徴は一国の首都でありながら、村的な生活があることだとジェレミーは思う。今は、こんな風に日々出会う、無名だけれど面白い人を紹介する番組のシナリオを書きたい、と思っている。 パリの魅力はほかにも、公園で卓球もできれば、コンサートも多く、いつも新しい出会いが待ち構えていること。—ボードレールやブラッサンスが讃えたように—通りですれ違う女性たちと視線で語り合ったりすることもそうだ。ミッテラン国立図書館やベルシーの新開発地区が好き。ヴェスパを買って『Journal intime』のナンニ・モレッティのようにパリをブラつくようになった。今日も大通りから小路に入って人々を観察する。(alex)
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「日々出会う、無名だけれど面白い人を紹介する番組のシナリオを書きたい」 |
rue du Tresor (3e) トレゾール(宝物)通り。袋小路になっているこの道で、彼は恋に落ちた。だからこの名は暖かみを持って彼の耳に響く。灌木に囲まれた石畳の袋小路に、感じのいいブティックやカフェが並ぶ。 カフェ〈Tresor〉のテラスに座って行きゆく人々を眺める。若手俳優であり映画も作ったギヨーム・カネだって、このカフェで寸劇を繰り返し演じ、仕舞いにはここの主人がカネの最初の映画をプロデュースすることになった、そんなエピソードだってあるのだ。(alex) |
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