●Arrete-moi si tu peux
たとえ “事実に基づく” という触れ込みの作品に食傷気味であっても、本作は見る価値十分、自信を持っておすすめしたい。偽造小切手をばらまきながら、パイロット、弁護士、医者になりすました若き詐欺師の半生を軽快に描く、ハリウッドの王様S・スピルバーグ最新作。
本作はタイトルが単純にイメージさせるような追いつ追われつの犯罪コメディというよりは、まず詐欺師フランク(R・ディカプリオ)とFBI捜査官(T・ハンクス)との奇妙な友情物語であり、同時に崩壊した家庭を前にフランクが葛藤するやや物悲しいファミリードラマでもあり、そしてトータルでまだ大人になりきれない青年の屈折した成長譚にもなっている。
お肌もツルツルで、久々に体型を戻したディカプリオの若作りは、いやはやお手のもの。彼が主演で『タンタン』映画化という企画も是非実現してほしい。(瑞)
●Solaris
やりたい企画は自由にする、時代の寵児S・ソーダバーグ監督が手にしたご存知古典SFの映画化だ。彼のお気に入り俳優G・クルーニーを、メランコリックな宇宙遊泳に飛び立たせてみせた。
本作を観た後、昔読んだ短編小説を思い出した。たしかこんな話だ。「ある小さな村で、原因不明のまま海の水位がゆっくりと上昇していく。静かな波は村全体をゆっくりと包み込んでいくが、村人は誰一人逃げもせず、そのまま海に飲まれていった」。抗えない美しい謎を前に、そのまま魂が侵食されていく感じ、と言えばよいだろうか。それが本作『Solaris』の世界観に通じている気がした。
ただし、コロンビア号の惨劇をリアルタイムで目撃した後の身としては、映画が醸し出す世界は、すべてが甘く美しすぎて、少々胃にもたれてしまうのも事実。映画化対決ならタルコフスキー版の方に軍配を挙げたい。(瑞)
●パリ13区に新しい映画シティー登場!
先月の半ば、ミッテラン国立図書館の裏側に巨大な映画館がオープンしたのをご存知? mk2 Bibliothequeは、14の上映室を持つマルチコンプレックス。ただ映画を見ない人にもアートスペース、カフェ、レストラン(トリュフォーの独占上映権を買収したmk2らしく〈Jules et Jim〉という名前)、まあまあ充実したDVDショップ、CDショップなど、プラスアルファの楽しみを夜中の2時まで提供している。ガラス張りの壁は取り外し可能で、夏はテラスに…そうなれば気持ちがいいだろう。でも果たして変貌するこの地域の新名所になれるか? 600席もあるという大上映室は、mk2が長い間プロデュースしてきたシャブロルの新作『La fleur du Mal』でこけら落しされた。(海)