ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』からヒントを得た創作劇。ゼウスの愛人となったばかりに、美しい娘イオーは、妻ヘラの嫉妬を恐れたゼウスに牝牛へと姿を変えられてしまう。外見は牝牛でも、人間同様に見聞きし、話し、考えるイオーの長い流浪の旅が始まる。 作者の一人、アラン・プロシャンツは、現在、高等師範学校で教鞭をとる神経生理学者、つまり演劇とはまったく別の分野で活躍している人だ。その彼を今回の企画へ引っ張り込んだのが演出家ジャン=フランソワ・ペレで、現代社会における人間と動物の違いを科学的な見地から捉えるとどうなるか? という実験的な試みのためだった。 で、結果は? 科学を念頭において構えないほうがいい。牛と人間の境で生きるイオーは、人間や動物、神たちとのさまざまな出会いを経て、最後には幸せをつかむ、と話は意外に単純にできている。 …ふと思った。イオーの運命は我々人類の未来を反映してはいないか? 種の交配、クローンなどを試みていくうちに、人間らしさ、動物らしさの境目がどんどんあやふやになり、ン十年後にはイオーのような美しい牝牛が生まれているかもしれない…と。ストーリー以外にも、機械仕掛けのピアノや生で演奏されるヴァイオリンの音色、投影される映像や科学記号、シンプルだけれど多様に変化する舞台装飾など、創造性あふれる舞台演出も楽しみたい。12/7日まで。(海) |
*Theatre de Gennevilliers : |
● Frou-Frou les Bains 時は1910年のはじめ、フランスのどこかにある湯治場を舞台に描かれるパトリック・オードクール作、ジャック・デコンブ演出のコメディーミュージカル。上客がやってくる、というその日に温泉が涸れていることに気づく主人は、客の応対に追われながらもなんとしても修理をしなければと右往左往、跡取り娘と恋仲にある従業員のひとりは湯治にきた独身女性に追いかけられ、跡取り娘と婚約するはずの男爵は女給と恋に落ち…ドタバタの大騒ぎ。さすが昨年モリエール賞を獲得しただけある。出演者9人と生伴奏をする4人のミュージシャンたちが、最高に息の合ったところを披露して観客を最後まで楽しませる。劇中の歌を口ずさみながら軽い足取りで劇場を後にした。 |
*Theatre Daunou : 01.4261.6914 7 rue Daunou 2e |
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Dance | |
●Mathilde MONNIER《Deroutes 》 「外と内の関係に興味があった。いま、すべてにおいて加速するなかを歩み続ける私たちの身体に、かすかながらいつの間にか、精神すらも侵す何か、を感じる。そして、いつかそこにあり続けることすら難しくなっていく」 ひとは常に自分と自分の外を知覚して生き続ける。それがバラバラになるとき。過去にも精神に障害をもつ女性と二人でつくった作品はarteでも放映された。「素材として鏡、そして個々の身体状況—あせり、疲労、忘却— について、個々の思考や物語によりながら、各々で創りあげた。世界の大きな変化はそれぞれの精神構造までをも左右する。イデオロギーの崩壊など」(珠) 13日~21日(16日を除く) 20h30(15日は16h) |
*Theatre de Gennevilliers : |
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