グランドピアノが置いてある以外は普通のレストラン。黒の洋服に白のエプロン姿が映える、きびきびとした動きのウエートレスと姿勢の良いウエーター。Bel Cantoはイタリアンレストランだが、〈Les Diners Lyriques〉と称されるように、オペラと食事が同時に楽しめるめずらしいお店だ。 テーブルに客を案内し、料理を運んでいるお店のスタッフが、急にピアニストの横に立ち、カルメンを熱唱。ソプラノ、テノ−ル、バリトン歌手4人が繰り広げるオペラの名曲を聞きつつ、イタリア料理のフルコースを楽しむ。 専属の歌手もいるが、多くのスタッフは音楽院の学生たちだ。狭き門のオーディションを通って選ばれただけある、プロ並みの歌手の卵たち。以前はスーパーなどで働いて学費を稼いでいた学生にとって、アーティストとして出演料や社会保障も受けられる理想的な環境だ。そして、観客の前で歌うという「実地訓練」は何にも欠かせない体験となっている。 このシステムを考えついたオーナーは大の音楽好き。遺伝性の大病に冒され、あやうく死を免れた時、与えられた人生を有意義に過ごすためにも、若い音楽家たちを支援しようと思いつく。 セーヌ沿いにある1号店は2年目を迎え、新たに14区に2軒目をオープン。金・土はかなり早くに予約をしないと席がとれない繁盛ぶり。壁にはオペラ座のオークションで購入された歴代の名歌手が着用したコスチュームが飾られている。テーブルでオペラ歌手のサービスを受け、彼らと直接会話を楽しめるのがこのお店のもうひとつの魅力だ。(尚)
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コースメニュー50€+チップ。 |