フツーの人々のフツーじゃない日常。 “Theatre sans animaux”

 皆から尊敬される文筆家の兄の知性を自分はようやく越えた、と三十路を越えた弟は兄へ自慢する。文盲だった弟は、努力実って読み書きができるようになり、膨大な量の文章を暗記している。弟に追い抜かれたことへのあせりを兄は隠せない…。 
 殿堂コメディー・フランセーズでようやく主役を獲得した妹の晴れ舞台を見に来た姉夫妻。夫に妹を激励するよう懇願する姉だが、劇と妹を嫌悪する夫は「ブラボー!」を言うことさえ拒絶する…。
 「おまえの名前は? 年はいくつ?」とちんぷんかんぷんな質問を娘に浴びせかける父親。健忘症かアルツハイマーか、娘は不安に…。
 ある日曜の朝、平穏そうな家庭の居間に巨大なボールペンが天井を貫いて植わっていて…。
 男3人、女2人が交代で演じていく短い話はまだまだ続く。ジャン=ミッシェル・リブ作のこの劇では、普通の人々が出会う、ばかばかしくてエキセントリックな状況が描かれていく。おしゃべりで軽いようだけれど、その実、中身は結構重たく、最後には必ず人と人の関係の断絶、別離、病、倦怠、平凡な日常や社会への憤り…などが待ち受けている。
 最後の逸話が傑作だ。「人間の祖先は魚だ」という誰かの一言をきっかけに、展覧会を見にきていた友人グループは議論を始める。「だったら人間は魚から進歩していないのね」「いや、魚よりも低俗かもしれない」…と、内容が複雑で悲観的になったところで、一人が「肩から力を抜いて皆で魚のように歩いてみよう」と提案する。いくら悩んでも何も良くならない、それよりは時流とともに前進していこう、という楽観的な結末だ。
 優秀な演劇作品に毎年贈られるモリエール賞で、今年度の最優秀喜劇作品賞、脚本賞、助演女優賞(暖かそうな人柄がうかがえるアニー・グレゴリオ)を獲得した、魅力いっぱいの作品だ。(海)

*Theatre Tristan Bernard :
64 rue Rocher 8e 01.4522.0840.
火~土/21h、土/18h 15.30~33.60


● Weisman et Copperface
Un western yiddish
 妻の葬儀のために、ニューヨークを目指してアメリカ大陸を横断するユダヤ人コッペルファスとその娘。砂漠で車を盗まれて立ち往生する父娘は、馬で通りかかったインディアン、ワイスマンと親交を結ぶ。コッペルファスもワイスマンも、自分がなめてきた人生の辛酸を相手に語りたがり、一方は、ナチスのユダヤ人虐殺を、そしてもう一方は、白人によるインディアン迫害を嘆く。
 娘の身の上をめぐり、父とインディアンが決闘する最後の場面がいい。土俵の上で各人が「これまでに苦しんできたこと」をキャッチボールでもするかのように応酬し合った後、知能障害を持つコッペルファスの娘が勝者を選ぶ。ベケットの世界によく似たばかばかしさ、不条理さに苦い笑いがこみあげてくる。
 作者ジョルジュ・タボリは、ハリウッドで映画脚本家として活躍。数々引用される映画のシーンは、きっとそのためだろう。演出はジャック・コノール。(海)
*Studio Theatre : 01.4458.9858.

 

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