リールは哀愁のレンガ色をしていた。 リールの玄関 Lille Flandres駅から正面にのびる大通りrue Faidherbeを進むとオペラ座があるテアトル広場Place du Théâtreにぶつかる。古本市が開かれていたバロック建築の旧株式取引所(1)の中庭をくぐり、噴水が目印のド・ゴール広場Place du Général de Gaulleを横切り、広場から北西にのびるrue Esquermoiseにある高級菓子屋〈Meert〉(2)を目指す。シャンデリアが揺れるルイ14世風のロマンチックな雰囲気に浸り、甘~いチョコタルトと紅茶を味わう。名物菓子ゴーフル(一個2€)は白アンに似た風味で美味。お土産にも最適だ。
rue Esquermoiseからrue Basseで右折し道なりに進むと、13世紀建立の病院が美術館として生まれ変わったMusée de l’Hospice Comtesseがある。フランドル地方の15~18世紀の美術品(3)が年代物の家具と調和しひっそりと並ぶ。ちょうど25年前のリールの町並を収めた写真展も開催中で、モノクロの世界から、立ち話をしたり窓から顔を出すリールの住人たちがこちらを眺めていた。rue au Peterinck、rue des Vieux Murs、rue Coquerezと撮影地が記してあったので、地図で確認すると美術館から目と鼻の先。早速、現在の景観を確かめに出かけたら、それらは洒落たギャラリーやブティックが並ぶ通りになっていた。かつて道にイスを出し日なたぼっこをしていた住人は、忙しそうに通りすぎる買い物客にとって代わられてしまったみたい。だけど鍵がかかっていない柵を開け、建物の中庭にそっと忍び込んでみると…、崩れかけた屋根、壊れた窓ガラス、一瞬にしてタイムトリップだ。古いアパートの錆びた階段を登れば、枯れた絶景が眼下に広がった。リールは哀愁のレンガ色をしていた。
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夕食はエスタミネ(北フランス・ベルギーの小さな居酒屋の意)でフランドル伝統料理を食べる。ホップの香りが効いた地ビールLe Blonde d’Esquelbecqと、ビールで煮込んだ牛肉料理カルボナードLa Carbonnade flamandeでビール三昧。和んだところでふいに客の青年が立ち上がりアカペラで歌を披露し始めた。(5)
店内は手拍子、合唱と大いに盛り上がり、いつのまにか私も酔いにまかせ日本の曲を披露してしまっていた。それから、疲れた体を休めに隣町ルーベのアラブ風ハマム(6)に直行。サウナやマッサージでしばし極楽気分だ。湯気に包まれながら、深夜の第ニラウンド、リールのバーはしごに向け英気を養うのであった。(瑞)
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