●RATPのナゾさん
11区のシャロンヌ駅近くのRATP本社横に、”Espace Metro Accords” という地下鉄で演奏するミュージシャンをコントロールする事務所がある。毎日平均10人のミュージシャンが試験を受けに来る。年間600名以上の申請に対し、許可されるのは約半数。採用された人も、更新の許可を得るために、半年ごとに再オーディションを受けている。
地下のオーディション会場の壁には、出世したミュージシャンの晴れ舞台の写真やコンサートのポスターが張ってある。審査員は、切符売り場の主任や音楽好きの職員、それにディレクターのナゾさんの計4名。「地下鉄はお金を稼ぐための場所ではない。演奏を許可するのは利用客に快適さを感じてもらうためです」
1997年1月に新設されたこの事務所の責任者に抜擢されるまで、ナゾさんは車掌として、車両内で演奏をする音楽家を取り締まっていた。「地下鉄はお金を
稼ぐための場所ではない。音楽の演奏は利用客に快適さを与えることが目的だ」 車両内で演奏をしてお金を乞う、という行為は禁じられていて、見つかると200Fの罰金が科せられる。
オーディションでの演奏はビデオに収録される。審査の資料として使われるだけでなく、ミュージシャンのプロモーションビデオとしても利用される。RATPの活動が一般に知れ渡り、企業や学校主催の催し物、あるいは結婚式のパーティーでの演奏依頼や問い合わせもたくさんくるようになった。現在では、エージェントとしての役割も果たすことになり、ビデオを提供したりミュージシャンの連絡先を教えたりと忙しい。リヨン市の地下鉄での催しにもミュージシャンをパリから手配した。今年の5月にはシンガポールの地下鉄に、数人の音楽家を派遣することが決まっている。
「新しいシステムにより音楽家の質が向上し、利用客のために良い雰囲気作りができて、とても好評だ」 ミュージシャンにとっても、さまざまなコンタクトができる見本市のような役割をになっている。
こうした地下鉄のミュージシャン登録制度は世界中どこにも存在しない。15年前にRATPに就職した時には予想もしなかった今のポストに、ナゾさんは大きな意義を感じている。
*Espace Metro Accords 01.5327. 4074