●フェルナンドさん
地下鉄のミュージシャンの中でも、毎日朝早くから演奏に出かけているのは、ギター奏者のフェルナンドさんだろう。自分のお気に入りの場所を確保するために、朝7時にはフランクリン・ルーズベルト駅かコンコルド駅に姿を見せる。「早朝に出勤する労働者はお金がないし、音楽に興味も持っていないから」と、まず新聞を読み、8時ごろから演奏を開始する。その間ミュージシャンが3人はやってくるが、すでに場所をとられているので、残念そうに去っていく。9時から10時台に通る人たちが一番良いお客さんで、月曜日はみんな機嫌が悪く、だめだそうだ。
「会社勤めと同じ気持で、規則正しく朝8時から演奏している」
毎日午後3時まで演奏する。「もし自分の場所が保証されていれば、こんな朝早くからは来ないだろうね。今は会社勤めと同じ気持ちで、規則正しく通っている。もちろん教会やコンサートホールで演奏をするのが理想だけど、好きな音楽で食べられるだけで満足」
彼とは数年前からの顔見知りだ。日本人の私の姿が見えると「さくら、さくら」のメロディーを弾いてくれるので、つい無視できず毎回お礼をかごに入れていた。数年前にテレビのCMでこの曲を聞いてから、楽譜を探して独習したという。通行人からも曲名を聞かれるそうだ。子供が通ると童謡を奏で、コミュニケーションを楽しむ。「以前は車両の中で演奏していたけど、自分からお金をもらいにいくのは大変だった。ここだと、人からありがとうといわれてお金をもらえるのがうれしい」