『書物の祝祭』– 現代日本のルリユール — N° 408 1998-01-15 パリの街を歩いていると、<RELIURE>の看板を掲げた工房を見かけることがある。ルリユールとは中世から続く伝統的製本工芸。日本には栃折久美子氏によって紹介され、池袋コミュニティカレッジに教室がある。 先日、日本の主だったルリユール作家が一堂に会す『書物の祝祭』が三木武夫記念館(渋谷区南平台)で催された。展覧会場としては珍しい、玄関で靴を脱ぐスタイル。茶室や庭の木々を眺めつつ展示室に向かった。 「渋谷の雑踏から会場に近づくにつれて、徐々に日常の垢がとれていく感じがします。製本家と注文者の個人的関係で成り立つルリユールに、提供していただいたこの空間の落ち着いた雰囲気は最適だと思いました」 と、代表の岡本幸治氏(48)。栃折氏の著書『モロッコ革の本』に触発され76年に渡仏。パリのU.C.A.D校などで製本工芸を4年間学び、現在は、書籍修復の貴重な担い手として注目されている。 「ルリユールだけを職業として生活するのは、まだ日本では苦しいです。教室に来られる方は圧倒的に女性が多いですね。パリでも若い女性が自宅でコツコツやる傾向になってきているようです」という言葉を受けて、 「出版社、図書館、古本屋などの、本に関係する仕事についている人が興味を持つことが多いわね」と栃折さん。 さて、全国で活躍する製本家22名が出展した作品の中には、売約済みの赤丸シールが貼られたものも。 「蒐集家の方が買われたのが、少し意外でした。私たちの基本はもともと注文による一点製作ですから。でも、今回は<仕事>としての ルリユールを広く社会に知ってもらう良い機会になりました。これを足がかりに未来につないでいければと思います」 最終日、人々で賑う会場でアルチザン岡本はそう静かに語った。 (マ) Share on : Recommandé:おすすめ記事 自分の引き出しが増えた。 ユゴーと出会って。 よく働く「親父さん」シェフに学んだ。 パリではよく学び、よく遊んだ。 ワインの喜びを分かち合う。 南仏の太陽の下で生まれたフランス語の先生。