マクロン大統領は4月29日付の複数の地方紙インタヴューで、4段階のCovid-19規制緩和とともに「衛生パス(pass sanitaire)」を6月9日から導入する方針を発表した。
昨年末から欧州連合(EU)ではワクチンパスポートの案が出ていたが、1月時点ではフランスとドイツは、接種義務化につながること、個人データ保護問題を理由に消極的だった。ところが、その後コロナ第3波の到来で各国が独自に国境閉鎖や隔離措置を採り始めたことから、パスの検討に前向きに。ギリシャ、スペインなど観光が重要産業である国や、デンマーク、スウェーデン、オーストリアなどは導入に積極的で、すでに試験的に導入した国もある。こうした流れを受け、EU委は3月17日に「グリーン証明書」案を発表。ワクチン接種済み、検査陰性、あるいはコロナからの回復を示すQRコード入りの証明書(デジタルまたは紙)というものだ。この案を4月28日、欧州議会は賛成540票、反対119票で承認した。ただし、入国の際に同証明書以外の規制を各国が独自に設けないこと、検査、ワクチン、証明書とも無料であること、EU認可のワクチン(現在4種類)に限定するという条件を追加。EUのなかには検査やワクチンが高価な国もあるほか、ロシアのワクチンを導入した国もあり、今後さまざまな調整が加盟国間で行われ、6月末から実施される予定だ。
これまでCovidパスについて明言しなかったマクロン大統領だが、欧州議会の採決を待っていたかのように導入方針を発表した。フランスでは、ワクチン接種済み、48時間以内のPCR陰性、あるいは陽性から15日以上、経過かつ2ヵ月以内である証明(「回復証明書」)を示す衛生パスとなる予定だ。6月9日からスタジアム、フェスティバル、見本市入場の際、30日からは千人以上の屋内外のイベントに提示を求められる。飲食店、劇場、映画館など市民が日常的に訪れる場所には適用されない。検査や接種をすると証明書を取得でき、そのデータコードまたはQRコードを「TousAntiCovid」アプリに保存または印刷できる。
フランスでは新規感染者数や重症者数は減少傾向であるものの、まだ高い数値を示しており、6月末にほぼ全規制が解除されることに医療関係者は深い懸念を示している。ワクチン接種の促進(6月15日から全成人対象)と衛生パスの導入により、マクロン大統領は観光業などの経済復興と規制疲れの国民の不満に応えるという、二重の賭けに出たようだ。(し)