毎年たくさんの伝記映画が作られる。有名人の物語は宣伝の手間も省けそうだ。最近はネタが出尽くしたのか、有名人の家族(カトリーヌ・ドヌーヴがシラクの妻に扮した『Bernadette』など)にまで対象が広がる。今回はエルヴィス・プレスリーの元妻プリシラが主役だ。
1959年西ドイツ。14歳のプリシラは兵役中のエルヴィスとパーティで出会う。「年齢より成熟してる」と言われ、すぐに親公認で交際。だが、学校の友人にも話せない秘密の関係だ。ソフィア・コッポラ監督は、世紀のスターと無名の少女の親密な出会いから、奇妙な結婚生活、出産や子育て、別れまでを描く。映画はあくまでもプリシラの味方だ。それもそのはず、ベースは彼女の回顧録で、本人が製作者にも名を連ねる。思えばコッポラ自身も有名人の家族。セレブだからこそ分かり合えることもあるのだろうか。
ただし、プリシラ監修下で撮った作品は表現の限界も感じる。ファンの一人としては、『ヴァージン・スーサイズ』や『ロスト・イン・トランスレーション』の時のように、もっと自由な発想で伸び伸び現代劇を手がけてほしいと思う。エルヴィスの言動にはあいまいな部分があり、考えさせられる。つまり、プリシラの年齢の若さや女性への生き方の押し付けなど、「時代だった」と簡単には切り捨てにくいのだ。だからだろうか、プレスリーの著作権権利者はこの映画に渋い顔。音楽の使用にも制限がかかった。エルヴィス映画はあのバズ・ラーマン監督作品だけでよかったようだ。
本作では瑞々しいスターが誕生したのは朗報だ。ベネチア映画祭では強敵を押し退け、ローティーンのプリシアから自然に演じ切った新星ケイリー・スピーニーが最優秀女優賞を受賞している。(瑞)