
あいかわらず、大手メディアは派手な映像が好きだ。フランス全土に広がった高校生の一連の抗議運動では、燃えさかる炎や、警察との « 衝突 »の映像ばかりを流し、高校生の声に耳を傾けないばかりか、抗議を暴動扱いしてきた。
高校生たちは諦めず、校舎・教室の不備、教員不足、クラスの生徒数が多すぎること、2018年に導入された大学進学選抜プラットフォーム「パルクールシュップ」の問題など、改善すべき10項目を掲げて運動を続けてきた。今回、高校の改善を求めて抗議をはじめた学校の生徒たちは、国のモットーである「平等」が自分たちにとっては絵空事であることを経験している。だからこそ、社会的な不平等を是正するために勉強したい。でも学校に先生がいなければ、不公平が再生されるだけだ、と立ち上がったのだ。
抗議する高校生に警察は催涙弾やゴム弾を放った。はじめから運動を支持していた教員、親、市民、市長や議員そして労働組合員らも、子どもたちを守るべく、警察と高校生の間に立ちはだかったが、やはり催涙スプレーを吹きかけられた。大学生が連帯を表明して運動に参加するようになり、物価高の抗議を機に黄色いベスト運動に参加していた人々、社会のなかの様々な人たちも高校生たちと一緒に歩くようになり、ひとつの大きなうねりとなった。
抗議を初めてから1ヵ月、高校生たちは大統領府でのマクロン大統領との話し合いをとりつけた。首相、教育相、高等教育相とも会談した。政府はその後、「改善措置」を発表したが、高校生の代表たちは、政府の提示案は不十分であるとし、さらに、今まで警察によって重傷を負わされた同胞への謝罪も要求に加え、運動の継続を呼びかけている。抗議は高校のバカンス終了後、11月5日にも、予定されている。オヴニーも、高校生と大学生の集会へ行ってみた。(集)




右)Tシャツ 「私のなかの憎悪は誰のせい?」 (目から血が流れるメイクです。)
高校生・大学生の訴えていること

Paroursup
不平等にノン!パルクールシュップという名の悪夢。

高校生運動の口火を切ったのは、恒常的な教職員不足や劣悪な教育環境に対する怒りの爆発だった。彼らは直ちに、時間割組みが悪いので長くなった拘束時間、大学入学資格試験バカロレアに向けたストレスと不安、精神的苦痛の増大を口々に語り、パルクールシュップ(進学選抜プラットフォーム)の廃止を要求した。
フランスでは急激な教育の大衆化に高校・大学の受け入れ体制・予算が長年、大幅に不足していた上、マクロン政権10年間に強化された緊縮政策によって、教育予算はさらに削減された(中高の教員1万人減、大学生1人あたりの予算20%減)。代わりに高校に導入されたのが、競争と自己管理の原理に基づく「専攻科目」とパルクールシュップだ。「万民に無償で平等な教育を」という歴史的な公教育の理念を(現実には程遠い理想だったにしても)、それは覆した。
生徒は高校3年生の時に希望する大学・学部を10件まで申し込むために、1年生の半ばで「専攻」科目、つまり進みたい専門分野や将来の職業を想定しなくてはならない。進学できる確率を上げるために、興味が低い学部に対しても意欲を装う必要がある。各自の異なる専攻科目に教員をあてがう時間割の作成が複雑化し、生徒の在校時間はかなり長くなった(8時〜18、19時)。従来の「クラス」は機能しなくなり、友だちと一緒の時間が十分に持てず、孤独に陥る生徒が増えた。その上、バカロレアの成績で内申の比重が高くなり、最終試験の他に行われる頻繁なテストは、ストレスを増大させた。

このパルクールシュップのシステムに、複雑すぎて不透明なシステムだと圧倒的多数の教員が反対した。選抜の基準の一つに「学校の評判」がある。パリ郊外の高校でフランス語を教えるエリーズさんは、「郊外の生徒は出来が悪いという先入観から、良い成績でもパリ市内の名門校の生徒が優先され、移民系の名前への差別もある」と憤慨する。公立校は基本的に学区制なので、私立の番付がいい学校に子どもを送る親が増えた。
学校どうし、生徒どうしの競争が強まると、経済的・文化的に進路戦略を展開できる裕福な層に対し、低所得層の子どもはさらに不利になる。パルクールシュップ導入以来、高額の進路コーチングのサイトがネットにあふれた。毎年、選抜の初期に約10万人、最終的に行き場がない生徒が何千と出る。彼らを狙って私立の教育機関(高額だが国の免状は取れない)が続々と誕生した。学費を工面できない低所得層の若者は進学を諦めるしかない。マクロン大統領の改革は、公教育を窒息させ破壊し、教育を市場に受け渡したのだ。
しかし、授業で革命の歴史や共和国の理念を学んだ高校生たちは、生まれながらの格差がますます増大した不平等にノンを突きつけた。運動が、経済・社会的に植民地的な差別状況が続く海外県と、パリ郊外の移民系や低所得層の子どもが多い地区の高校で始まったのは、最も劣悪な教育環境と不平等、日常の差別に尊厳を傷つけられている子どもたちの怒りが炸裂したからだ。教育は権利だ、自分たちも普通に学んで未来を築きたいと。(飛)




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メディアの報じ方。
メディア監視団体ACRIMEDが行った調査では、France2(公共テレビ局)夜8時のニュースで高校生のデモを扱う際に取り上げるのが暴力と物の破損が75%。高校生の要求する内容はわずか8%だった。

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Gens Z
「自由・平等・友愛」を体現するZ世代。

ゼネストを引き起こしドゴール政権を揺さぶった1968年5月革命以来、フランスでは大規模な学生運動は何度も起きているが、2026年の高校生の抗議運動では空前の現象が目につく。
まず、いつもは都市部の中産層が通う学校から始まる封鎖が、海外県や郊外の低所得層が住む、中央から打ち捨てられた地区(交通網や公共サービスがほとんどない)で勃発し、全国の高校と大学に広がったことだ。そして、公立のエリート校、運動とは無縁だった保守的な私立カトリック校や名門ビジネス校にまで波及した。裕福で特権的な教育環境にいる生徒が、機会の平等を求める高校生への支持と連帯を表明したのは画期的である。
要求を掲げる高校生たちの政治意識の成熟、警察の度を超えた弾圧に少しも怯まない勇敢さ、他の生徒や教員、弱者を心遣い、社会の改善を求める正義感と倫理観、そして何よりユーモアに富んだ表現と斬新な行動様式が、Z世代の際立った特徴だろう。

子どもの時にコロナ危機で自由を奪われ、気候変動とネオリベラリズムの経済による弊害を最も甚大に被るZ世代のこのダイナミズムは、どこから生まれたのだろうか?教員のエリーズさんは、ネットを通した繋がりを強調する。SNSで彼らは国境や階層の枠を超えて多様性を生き、他者への共感と寛容、連帯を身につけた。性差別がなく、LGBTも外国ルーツの子もみんな仲間だ。集会やデモで彼らは革命歌だった国歌ラ・マルセイエーズを歌い、三色旗を掲げたりまとったりする。パレスチナの旗も目立つ。デモの負傷者や高齢者に対する彼らの優しさに、エリーズさんは感動する。「これは最も美しく創造的で聡明な、楽しい革命です」。

若い世代のユーモアとウィットは手作りのプラカード上に発揮されている。デモにワニやバットマンなどのコスプレで来る者も多く、とりわけ『ワンピース』のルフィーのコスプレと海賊旗、麦わら帽があちこちで目を引く。理由は「ルフィーが自由で、抑圧と闘っているから」。コスプレやダンス、コーラスなど運動の楽しく創造的な面も、支持と連帯が広がった要因だろう。フランスの高校生運動はイタリア、ベルギー、アルバニア、インドなど世界各地に影響を与えているが、ワンピースの海賊旗はすでに、インドネシアやモロッコなどで若者の抗議運動に使われていた。
Z世代が社会の不正と不当な権威主義に対して立ち上がったのは、親世代の生活難を見て政府やメディアなど権力が弁じる嘘を理解し、納得できない権威に従うのを拒むからだ。競争と利己主義によって地球を破壊し、人間を痛めつけてきた大人たちに向かって彼らは言う。「私たちは学校で人権宣言やランボーの詩、ラ・ボエシーの『自発的隷従論』を学んだ。あなたたちが提供する悪夢ではなく、もっとすてきな未来がほしい、別の世界をつくりたい」。

高校生の要求に前代未聞の不当な弾圧で応酬するマクロン大統領は、若者は嫌いだと言っていた。「若者をあなどる国家は、その国の未来を侮辱する」と高校生はプラカードに記した。Z世代が親や祖父母を教育して因襲的な規範を覆せば、世界は救われるのではないだろうか。(飛幡祐規)

♪ デモのプレイリスト
高校・大学生のシブいセレクション!

デモには闘志をかきたてる歌がつきものだ。一連のデモで聴かれる歌のひとつが、2018年に始まった〈黄色いベスト〉運動の「On est là」。♪マクロンがイヤがろうが、我らはここにいる。労働者の栄誉のため、よき世界のため〜♪と歌う。
シャルル・アズナヴールの「Emmenez-moi 」(1968)のような懐メロも。北国出身の港湾労働者が「船で地の果てまで行けば、太陽がふりそそぎ、惨めな生活もマシなのだろうか」と夢を語る歌だ。それと同時代の「El Pueblo Unido Jamás Será Vencido」は、♪団結する人民は決して負けない♪ のリフレインが勇ましい南米チリのプロテストソング。
また、第二次大戦下のイタリアでレジスタンス闘志たちが歌った「Bella Ciao!」も定番だ。古いものでは1871年パリ・コミューンの革命時に作られ、一時はソ連の国歌でもあった「L’Internationale」。♪最後の闘いだ。あす集まろう、連帯は普遍なり〜♪と皆でこぶしをふりかざす。歌い継がれる歌に、体をはって自由や権利、尊厳を守ろうとする信念を大切にする文化の深さを感じる。
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Vocabulaire
ボキャブラリー
Appariteur :
暴徒の格好をしてデモ隊に紛れ込み、モノを燃やしたり、物を投げたりする警察官。今回の高校生の抗議では、何人もの「アパリトゥール」の姿がビデオにとらえられている。
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アーティストが高校生を応援。



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スローガン、何言ってるの?
抗議高校生の天敵、警察とファシスト。

警察官が高校封鎖の情報を得るため、偽名を使って高校生のSNS(Snapchat)に入ろうとした。その時に使ったのが「Bismillah c’est les ténèbres(アッラーの名において。闇である)」。高校生はメッセージの位置情報により、これが警察の潜入作戦であることを突き止めた。その後、若者が警察の失態をからかう表現となり、プラカードでよく見かけるようになった。

デモでよく聞く 「Acab アッカーブー!」は 「All Cops Are Bastards (警察はみなクソ野郎)」の頭字語でイギリス発祥。「これを直接的にプラカードに書くと警察にシバかれるので、暗号で1312」。「Tout le monde déteste la police (皆、ポリスが大嫌い)!」も頻度が高い。「Siamo tutti anti fascisti(イタリア語:我らは皆、反ファシストなり!)」は、ムッソリーニ政権が勢いを増す1920年代にまでさかのぼる。今フランスでは、反ファシスト団体に圧力がかけられているため、毎回のように聞かれるようになった。
現政権に対しても手厳しい。「Macron démission! (マクロン辞任!)」またはリズミカルな 「Macron t’es foutu, la jeunesse est dans la rue! (マクロン、君はもうおしまいだ!若者が通りを占拠する!)」。
極右が勢力を増す昨今、極右政党に対するメッセージも多い。「La jeunesse emmerde le Front National (若者がFN=極右政党 RNの前身=を邪魔してやる!)」は、フランスのパンクグループ「ベルリエ・ノワール」の80年代の歌のリフレイン。正しくは、手の中指を立てて叫ぶ。多く聞かれるスローガンだ。




