男子のシンクロナイズドスイミングを映画の題材にしたのは、日本の矢口史靖監督『ウォーターボーイズ』(2001)が世界で最初だと思う。ピチピチの男子高校生が紆余曲折を経てシンクロに挑み、学園祭で大成功を納めるまでの青春コメディーだった。
さて、10月24日公開の『Le Grand Bain』では、お腹のぽこっと出たオジサン7人がシンクロに挑む。一歩間違えばグロくなりそうだが、マチュー・アマルリック、ギヨーム・カネ、ブノワ・ポールヴールド、それにジャン=ユーグ・アングラードといった当代の一流俳優が結集していることで、本年度、フランス映画きっての話題作となっている。
市営プールの男性シンクロ・サークルに入っている男たち、それぞれに問題を抱えている。中年クライシスと言うのか、人生半ばを過ぎて我が身を振り返れば、パッとしない自分がいる。失業中で鬱気味だったり、息子や妻との関係作りに失敗していたり、金の問題で首が回らなかったり、若き日のロック歌手への夢をそのまま引きずっていたり…。こいつらがシンクロに燃え始める。
半信半疑から真剣に変わっていく。彼らを指導するのは、こちらも当代一の人気女優、ヴィルジニー・エフィラ。元シンクロ・チャンピオンが彼らのやる気を盛り上げていく。が、彼女自身が私生活の躓(つまづ)きで離脱してしまう。代わりに現れたのが彼女の元相棒、事故で今は車椅子生活のレイラ・ベクティ。彼女のスパルタは男どもを震え上がらせる。こうして彼らはなんと、男子シンクロ世界選手権に挑むのである。
特筆すべきは、プールの管理人でシンクロにも参加する童貞風中年を演じる(変態?)歌手として有名なフィリップ・カトリーヌ。彼は最近、俳優としての活躍が目立つ。本作でも良い味をだしている。監督は自身も売れっ子男優であるジル・ルルーシュ。今年のカンヌ映画祭、コンペ外・特別上映作として喝采を浴びた。ちなみにシンクロナイズドスイミングは、今年からアーティスティックスイミングと名称を変更。(吉)