インターネットがこれほど発達すると、ネット上の自分はもはやもう一人の自分に違いない。SNSのアカウントは手っ取り早く社会とつながれる窓となる。本作はそんな大事なFacebookのアカウントが、何者かに乗っ取られた監督のドキュメンタリー。
フランス人監督のアルメル・オスティウは、ある時「君のアカウントが2つあるよ」と知り合いに指摘される。調べてみると、たしかに自分の名前と写真を使った謎のアカウントが存在していた。早速Facebookに削除願いを出すも、答えはなんと「削除できない」。自分でなんとかしなければ、だ。
偽者の自分はコンゴの首都キンシャサに住んでいるらしい。「映画監督」を騙(かた)っては映画オーディションの告知を出し、女性たちに声をかける。だからFacebookの「友だち」は女性ばかり。とにかく怪しいアカウントだ。監督は好奇心とカメラを道連れに、キンシャサへと向かう。
現地では協力者を得て偽者探しへ。マラブー(呪術師的な宗教指導者)にだまされかけるなど、何事もスムーズには進まない。だが、焦りは禁物がアフリカ流。周囲の助言に従い、Facebook上で偽物をおびき寄せる「犯人ホイホイ」作戦を仕掛けた。偽者は餌に食いつくだろうか。
トラブルを逆手に取り、映画に仕上げたのはさすが監督。探偵もののように始まり、異文化との出会いに満ちた珍道中を抜け、その先には嘘から始まる真実のドラマが広がる。やはりいつの時代でも人との出会いは、ヴァーチャルではなく生(ナマ)が楽しいに決まっている。監督は1976年生まれで名門の国立映画学校フェミス出身。パリのドキュメンタリー映画祭「Cinéma du Réel」で注目された一本だ。(瑞)6/7公開