夏から軒並みジャポニスムのパリ…と思いきや、ひと味ちがう展覧会が始まる。「サンローランが夢見たアジア」 ― 1年前に開館したイヴ・サンローラン美術館が催す最初の企画展だ。インド・中国・日本の衣服と文化は、フランス的エレガンスを象徴するこの天才デザイナーのイマジネーションを大いに刺激した。
アルジェリアのオランで生まれ、子ども時代を過ごしたサンローラン。東洋的なものに敏感で、インドの衣装や装飾品を早くからコレクションに取り入れた。しかしインドには生涯、足を踏み入れず、書籍や蒐集した美術品から想像力を膨らませた。中国も北京を一度訪れただけ…プルーストの小説に出てくる描写や京劇、オーソン・ウェルズの映画『上海から来た女』などに触発されて自由奔放に、自分が夢想する 「中国」を1977年のコレクションと香水「オピウム」で表現した。
サンローランは西洋の因襲的な美の基準をくつがえし、黒人やアジア人のモデルを最初に起用したデザイナーのひとりでもある。スモーキングやマハラージャの衣装など男装をとり入れて、ジェンダーの枠も軽々と越えた。世界各地の伝統的衣服・装飾品をもとにモダンな創作を生み出した過程には、異国趣味を超えた他文化への情熱が見てとれる。(飛)
取材と文:飛幡祐規
Interview et texte : Yûki Takahata